このシリーズでは、消費税滞納の実態を企業の破産事例から自治体の未納までたどってきました。消費税は「最も身近な税」でありながら、その仕組みや運用に大きな歪みがあり、国民や事業者に不信感を抱かせています。
最終回となる今回は、この滞納問題が私たちに突きつける課題を整理し、今後の方向性について考えてみたいと思います。
消費税滞納の現実
まず押さえておきたいのは、消費税滞納の規模です。
- 2024年度に新たに発生した税滞納額:9,925億円
- そのうち消費税が 5,298億円(全体の半分超)
- 税・社会保険料の滞納が原因の倒産件数:170件超(過去10年間で最多)
一見すると「滞納割合は全体の2%にすぎない」と言われます。しかし金額ベースでは突出しており、社会全体の信頼を揺るがすインパクトを持っています。
構造的な問題点
消費税滞納は「悪意ある事業者」の問題ではなく、制度そのものの設計に起因する部分が大きいといえます。
1. 赤字でも納めなければならない
法人税は利益が出なければ納税義務がありません。しかし消費税は売上があれば必ず発生し、赤字企業でも納めなければならない。この仕組みは資金繰りが苦しい企業を直撃します。
2. 納付のタイムラグ
売上規模に応じて、納付は年1回〜年12回と差があります。小規模事業者は年1回しか納付しなくてもよいため、その間に「預かり金」が手元にたまり、資金繰り難で流用されやすくなります。
3. 「預かり金」を事業者が管理する不自然さ
消費税は消費者が負担する税ですが、納付までの間は事業者が管理します。この「代理納税」の仕組みが、滞納の温床となっています。
信頼の揺らぎ
さらに、東京都の都営住宅事業で21年間の未納が発覚した事例は「徴収する側すら守っていなかった」という衝撃を与えました。
- 2019〜2022年度分は延滞税を含めて約1億円を納付
- しかし2018年度以前は「時効」で免除
制度上は合法でも、納税者の立場からすれば「不公平」以外の何物でもありません。
このような事例が広まれば、国民の納税意識は低下し、制度全体の信頼を大きく損なう危険があります。
今後の方向性:改革の論点
この問題を解決するには、制度全体の見直しが避けられません。いくつかの方向性が考えられます。
1. 納付回数の見直し
- すべての事業者に「毎月納付」を義務づける案
- メリット:預かり金の流用を防ぎ、納税意識を高める
- デメリット:小規模事業者の事務負担増大
現実的には「選択制」や「簡易納付制度の強化」など、中間的な仕組みが求められるでしょう。
2. 分納制度の柔軟化
資金繰りが一時的に厳しい場合に、分割で納められる仕組みを柔軟に適用することが考えられます。現行制度でも分納は存在しますが、もっと利用しやすくすることが必要です。
3. 透明性の向上
「消費税は社会保障に使われている」と説明されますが、具体的にどの分野にいくら充てられているのかを国民が実感できる仕組みが不足しています。
納めた税がどう活用されるのかを見える化することで、納税への信頼を取り戻せます。
4. 監査・内部統制の強化
自治体の未納問題が示したのは、チェック機能の甘さです。定期的な監査や、AIを活用した異常検知など、新しい仕組みを導入することが不可欠です。
私たちにできること
消費税は「知らないうちに支払っている税」だからこそ、その仕組みを理解することが大切です。
- 消費者として:自分の支払った消費税がどう使われるのか関心を持つ
- 事業者として:預かり金の管理を徹底し、納税資金を確実に確保する
- 市民として:制度の改善や透明性向上を求める声を上げる
消費税は社会保障を支える大黒柱です。だからこそ「信頼できる税」でなければなりません。
まとめ
- 消費税滞納は、制度の構造的な歪みに起因している
- 赤字でも納める義務、納付のタイムラグ、「預かり金」という仕組みが問題を生んでいる
- 自治体すら滞納していた事例は、信頼の根幹を揺るがす
- 今後は納付回数や分納制度の見直し、透明性向上、監査強化が求められる
消費税を「国民にとって最も身近な税」であると同時に「信頼できる税」とするために、制度の改善は避けられません。
国や自治体はもちろん、私たち一人ひとりがその仕組みに関心を持ち、声を上げていくことが、より公正で持続可能な税制につながっていくのではないでしょうか。
📖参考
「消費税、年5000億円の滞納ドミノ 資金難で手を付けた『預かり金』」日本経済新聞(2025年9月29日)
記事はこちら
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
 
  
  
  
  
