第5回:自治体すら滞納? 信頼性を揺るがす事例

政策
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消費税の滞納は、中小企業の資金繰りや経営破綻といった場面で語られることが多いテーマです。しかし、驚くべきことに「徴収する側」である自治体までもが滞納していた事例が存在します。

本来なら国民に模範を示すべき立場の自治体が滞納していたとなれば、消費税制度の信頼性は大きく揺らぎます。今回は、その象徴的なケースとして東京都の「都営住宅事業」における未納問題を取り上げます。


東京都のケース:21年間の未納

東京都は都営住宅事業の特別会計において、なんと 21年間にわたり消費税を納めていなかった ことが国税当局の指摘で発覚しました。

  • 対象となったのは2001年度(平成13年度)から2022年度(令和4年度)までの長期間
  • 消費税を含めた経理処理を怠り、結果的に納税義務を履行していなかった
  • 国税当局の調査により、2019〜2022年度分については 延滞税を含めて1億円強 を納付
  • しかし2018年度以前については「時効」により納付義務が消滅

つまり、21年もの間滞納が続いていたにもかかわらず、その大部分は「時効」で支払わずに済んでしまったのです。


「徴収する側」が滞納する異常さ

この事例が衝撃的なのは、東京都が「徴収する側」であるにもかかわらず、納税義務を怠っていたという点です。

消費税は国民から「信頼して預かる税金」です。にもかかわらず、自治体自らがその義務を果たしていなかったとなれば、国民の納税意識に悪影響を与えるのは必至です。

「国民には厳しく徴収するのに、自分たちは守らなくてもよいのか」という疑念を招き、制度全体の正当性を揺るがしかねません。


時効の壁

さらに問題を複雑にしているのが「時効」の存在です。消費税を含む国税の納付義務は、原則として5年で時効にかかります(悪質な場合は7年)。東京都の場合、2018年度以前の分はすでに時効が成立しているとして、納める必要がないとされました。

この結果、国税当局の指摘を受けても、実際に納められたのは直近4年分にとどまりました。
延滞税を含めても1億円強という金額は、21年間の未納分のごく一部にすぎないと考えられます。

制度上「合法」であっても、「公的機関が時効に守られて巨額の税を払わずに済んでいる」という事実は、納税者にとって強い不公平感を残します。


「信頼」が崩れると何が起こるか

税制度は「信頼」によって支えられています。

  • 国民は「自分が払った税が公正に集められ、適切に使われている」と信じているからこそ納税する
  • 事業者は「社会のルールとして自分も納めるべきだ」と認識するからこそ代理で消費税を納付する

しかし徴収する側が滞納していたとなれば、この信頼は大きく損なわれます。

「国や自治体が守らないのに、なぜ私たちだけが守らなければならないのか」
こうした不満が広がれば、納税意識は低下し、滞納や脱税の増加につながりかねません。


制度全体への波紋

東京都の事例は特殊なミスと片づけられるかもしれませんが、制度全体に投げかける問いは深刻です。

  • 税務チェックの仕組みは十分か
    → 長期間にわたり見過ごされたのはなぜか。内部統制や監査の仕組みに不備があったのではないか。
  • 時効のあり方は妥当か
    → 善良な納税者に厳格に徴収する一方、公的機関は時効で免れることが許されるのか。
  • 国民への説明責任は果たされたか
    → 「発覚しました、支払いました」で終わるのではなく、なぜ起きたのか、どう防ぐのかを明示する必要がある。

このように、単なる会計ミスではなく、税制度の公平性そのものに関わる問題だといえます。


まとめ:模範を示すべき存在として

消費税は国民一人ひとりが日常的に支払っている税であり、その信頼性は制度全体の根幹をなしています。

だからこそ、国や自治体の責任は極めて重いはずです。模範を示すべき存在が滞納していたとなれば、制度への信頼は大きく揺らぎます。

今回の東京都の事例は「特殊なミス」ではなく、「信頼がいかに脆弱か」を示す警鐘として受け止めるべきでしょう。

次回はシリーズの最終回として、消費税滞納問題が投げかける課題と今後の制度のあり方を総括します。消費税を「信頼できる税」とするために、国・自治体、そして私たちに求められることを考えていきます。


📖参考
「消費税、年5000億円の滞納ドミノ 資金難で手を付けた『預かり金』」日本経済新聞(2025年9月29日)
記事はこちら


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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