第5回 遺言書と相続税のシンプルな関係(遺言書と人生デザインシリーズ)

FP
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「遺言書を書くと相続税が減るのですか?」
「誰にどれだけ渡すと税金が増えるのか知りたい」
——遺言書を検討される方から最も多い質問のひとつです。

実は、遺言書そのものには相続税を減らす効果はありません。
しかし、遺言書の“書き方”によって、相続税が増えたり減ったりすることは大いにあります。

さらに、遺言書は相続税だけでなく、
「相続トラブルの発生確率」「遺族の心理負担」「相続手続の難易度」
にも強く影響します。

本稿では、税理士・FPの視点から、
「遺言書と相続税の関係」をできるだけシンプルに、しかし本質を押さえて解説します。

1.遺言書には“税金そのものを減らす力”はない

まず誤解を解くところから始めます。

  • 遺言書を書いたからといって相続税が安くなる
  • 遺言書を書かなかったから税額が増える

こうした直接的な「税額変化」はありません。

しかし、遺言書の内容は、
相続税の計算に影響する“分け方”に関して絶大な影響をもちます。

つまり、
遺言書は相続税を“間接的に”変える力がある
ということです。


2.遺言書の内容次第で税額が変わる3つの理由


理由①:配偶者の税額軽減(配偶者控除)の使い方が変わる

配偶者には非常に大きな相続税軽減があります。

◆配偶者控除とは?

  • 法定相続分
    または
  • 1億6,000万円

のいずれか多い金額までは相続税がゼロ。

この制度をどう使うかで
「一次相続の税額」「二次相続の税額」が大きく変わります。

遺言書がない場合
→ 法定相続分が強く働くため、配偶者控除を十分に活用できないケースがある。

遺言書がある場合
→ 配偶者に多く渡すように設計することで、一次相続の税負担をゼロにしやすい。

ただし、配偶者に寄せすぎると
二次相続(配偶者死亡時)で子に重い負担がかかる
ため、バランスが重要です。


理由②:小規模宅地特例(自宅の土地が最大80%減)が使えるかどうか

自宅の土地に適用できる
小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)
の有無は、相続税に巨大な差を生みます。

この特例は、

  • 誰が相続するか
  • 相続後に住み続けるか
    によって適用結果が変わります。


・長男が同居しており、そのまま住む
→ 減額OK(330㎡まで80%減)

・複数の兄弟で共有した
→ 減額不可となるケースが多い

遺言書がない場合
→ 誰も住まない共有状態になりやすく、特例が使えず税額が跳ね上がることがある。

遺言書がある場合
→ 「自宅は●●に相続させる」と明示できるため、特例を確実に使いやすい。


理由③:財産の分け方によって相続人それぞれの税率が変わる

相続税は“各人が受け取る額”に応じて税率が変わります。

・少額 → 低い税率
・一定以上 → 高い税率

となるため、遺言書で“分散して承継させるか”によって税額が変わることがあります。

例(よくあるケース)
・長男に不動産(4,000万円)を集中
・次男に少額の預金(300万円)

このように偏った分け方だと、
長男だけ税負担が大きくなることがあります。

遺言書があれば、
特定の相続人に偏る分け方を調整し、
税率の“跳ね上がり”を避けることができます。


3.「相続税の節税になる遺言書」3つのポイント

遺言書自体には節税効果はありませんが、“書き方次第で節税になる”ポイントがあります。


ポイント①:配偶者控除を使いすぎない

配偶者に全財産を相続させれば、一次相続の税金はゼロになります。
しかし、それは二次相続で大きな税負担を先送りしているだけです。

配偶者の寿命・子の人数・財産規模を踏まえて、
バランスを取ることが重要です。


ポイント②:小規模宅地特例(自宅80%減)を確実に使う

この特例は、遺言の有無が大きく影響します。

・共有名義
・分け方が曖昧
では、特例を失う可能性があります。

遺言書に
「自宅は○○に相続させる」
と明記することが最も安全です。


ポイント③:複数の相続人にバランスよく配分する

分散させたほうが税率が下がることがあります。

ただし、物理的に分割が難しい不動産は、
他の財産(預金・保険金)を組み合わせる必要があります。

必要に応じて
“代償金”を遺言書に記載する
ことも有効です。


4.「遺言書のせいで税金が増える」典型例

逆に、遺言書の書き方によって税金が増えてしまうケースもあります。


ケース①:自宅を共有させる内容の遺言

共有は特例喪失のリスクが高く、
相続税が本来より高額になることがあります。


ケース②:配偶者に全財産を相続させてしまう

一次相続ではゼロ、
→ 二次相続で一気に課税。
子が複数いれば、税率が上がりやすくなります。


ケース③:不動産が複数あるのに特定せず「不動産すべてを長男へ」とする

遺言の内容が曖昧であると、
・特例が使えない
・評価方法で争い
につながります。


5.遺言書は「相続税」より「相続の全体最適」を考えるツール

相続税は確かに重要ですが、
最優先すべきことは税金の最小化ではなく、
“家族の負担が最も少ない相続を実現すること”です。

相続税だけ考えて
「配偶者にすべて相続」
とすると、
後で子の負担が重くなり、トラブルの元にもなります。

遺言書は、
税金・生活・感情・家族関係
すべてのバランスを取ることが大切です。


結論

遺言書は、直接的に相続税を減らすものではありません。しかし、遺言書の内容次第で、

  • 配偶者控除の使い方
  • 小規模宅地特例
  • 各人の税率
  • 財産の分け方のバランス

これらが劇的に変わり、結果として税額が上下します。

節税を目的とするなら、
「誰に何をどれくらい渡すのか」
の設計が最も重要であり、
それは遺言書によってコントロールできます。

そして何より遺言書は、
相続税の節税だけでなく、
“相続手続の円滑化”と“家族の安心”を生む人生デザインのツールです。

相続税と向き合いながら、
あなたと家族にとって最適なかたちを選んでいきましょう。


出典

・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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