第5回 老後の住まいを考える ― 税理士・FPの視点から

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ここまで、高齢者が賃貸住宅を借りづらい現状、改正住宅セーフティネット法のポイント、空き家とのミスマッチ、地域での支援体制について整理してきました。

最終回となる今回は「老後の住まいを早めに考えることの重要性」をテーマに掘り下げます。

住まいは単なる「器」ではなく、人生100年時代における生活の基盤です。そこには「相続」「残置物」「家計」「介護」など、幅広い問題が絡み合います。


相続と残置物問題

まず避けて通れないのが、相続と残置物の問題です。

高齢の親が亡くなった後に残された家財道具や不動産の処分に、子世代が頭を悩ませるケースは少なくありません。

  • 家の中に大量の荷物が残り、片付け費用が数十万円かかる。
  • 遠方に住んでいる子どもが対応できず、空き家が放置される。
  • 誰も住まない実家に固定資産税だけがかかり続ける。

こうした事態は、残置物処分を円滑にする改正法の仕組みで軽減できる部分もありますが、生前からの準備が何より大切です。

税理士・FPができるサポート

  • 遺言や家族信託を活用し、相続時に不動産をどう扱うかを明確にする。
  • 残置物整理の契約を生前に取り決めることで、子世代の負担を減らす。
  • 相続発生後の不動産売却や活用について、税制優遇を踏まえたアドバイスを行う。

相続と住まいの問題は切り離せないテーマなのです。


家計と老後の住居費

次に考えるべきは、家計における住居費の位置づけです。

「持ち家だから安心」という方も多いですが、実際には修繕費や固定資産税、管理費などがかかります。逆に賃貸の場合は、家賃負担が老後の生活に大きくのしかかります。

モデルケース

  • 持ち家:築30年の戸建て、今後20年間で修繕費500万円、固定資産税年間10万円 → 合計700万円以上の支出。
  • 賃貸:家賃8万円 × 20年 → 1,920万円。

持ち家と賃貸のどちらを選ぶにせよ、長期的な住居費の試算は欠かせません。

プランニングの工夫

  • 退職金や年金の範囲で家賃をまかなえるかをチェック。
  • サービス付き高齢者住宅(サ高住)や介護施設の費用もシミュレーション。
  • 住宅費と医療・介護費を合わせて「老後の三大支出」として管理する。

住まいの確保は、老後のライフプラン全体に直結します。


空き家の有効活用と地域貢献

空き家問題と住宅弱者支援の関係は、第3回で触れました。税理士・FPとしては、空き家をどう活かすかが重要な相談テーマになります。

活用の選択肢

  • 高齢者向け賃貸として整備し、セーフティネット住宅に登録。
  • 地域NPOと連携し、見守りサービス付き住宅として提供。
  • 売却して資産を流動化し、老後資金や介護費用に充てる。

空き家を放置すれば、相続税の特例(小規模宅地等の特例)が適用できないケースも出てきます。逆に有効活用すれば、税制上のメリットを得ながら地域貢献も可能になります。


保証人と契約トラブルへの備え

高齢者が賃貸契約を結ぶ際に大きな壁となるのが、保証人の問題です。

  • 子どもがいない、または遠方に住んでいる。
  • 子どもに負担をかけたくない。
  • 親族との関係が希薄。

このようなケースでは、入居自体が難航します。

解決策

  • 保証会社の利用:費用はかかるが、入居の可能性が広がる。
  • 居住支援法人との連携:保証人代行や生活支援を受けられるケースもある。
  • 成年後見制度や家族信託:契約や支払いを安定させる仕組みとして有効。

税理士・FPがこうした制度を説明し、必要に応じて弁護士や司法書士と連携することが、顧客の安心につながります。


「終の住処」を早めに考える

結局のところ、老後の住まいは「最後の住まい=終の住処」をどうするかに行き着きます。

  • 住み慣れた家に住み続けるのか
  • バリアフリーのマンションに住み替えるのか
  • サービス付き高齢者住宅や介護施設に移るのか

どの選択肢を選んでも、早めの準備が安心につながることは間違いありません。

早めに考えるメリット

  • 資金計画を立てやすい。
  • 家族と意思疎通ができる。
  • 空き家や相続のトラブルを防げる。

「まだ先のこと」と思わず、50代からでも検討を始めるべきテーマです。


まとめ

  • 相続と残置物は生前から準備することで負担を軽減できる。
  • 家計の中で住居費を長期的にシミュレーションすることが不可欠。
  • 空き家の活用は、税制面のメリットと地域貢献の両立が可能。
  • 保証人問題は、制度や支援法人との連携で解決策を見出せる。
  • 「終の住処」を早めに考えることが、老後の安心につながる。

改正住宅セーフティネット法は、こうした課題に対応するための制度的な枠組みを整えました。しかし最終的には、一人ひとりが「老後の住まいをどう確保するか」を具体的に考え、家族や専門家と話し合って準備することが何よりも大切です。


シリーズを終えて

この5回シリーズで取り上げたのは、

  1. 高齢者が賃貸住宅を借りづらい現状
  2. 改正住宅セーフティネット法のポイント
  3. 空き家400万戸とマッチングの壁
  4. 地域で支える仕組み ― 居住支援法人と協議会
  5. 老後の住まいを考える ― 税理士・FPの視点から

でした。

高齢化社会における住まいの問題は、決して他人事ではありません。誰もが将来直面する可能性があります。このシリーズをきっかけに、読者の皆さんが自分自身や家族の「住まいの将来」を考える一助になれば幸いです。


📌参考:日本経済新聞「改正住宅セーフティネット法施行」(2025年9月14日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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