株高が続く局面では、家計の資産が増えたことによる安心感から住宅購入や自動車、家電などの耐久財消費が刺激されるといわれます。しかし2025年時点の日本では、株高のプラス効果と同時に金利上昇や物価高というマイナス要因も存在し、住宅市場や耐久財市場には複雑な動きが表れています。
本稿では、株高が住宅・自動車・家電などの大型消費にどのような影響を与えているのかを整理し、今後の展望を考えます。
1. 株高は本来、住宅市場を押し上げる力がある
住宅購入は、家計の将来見通しと心理的安心感が強く影響する消費行動です。
株価上昇は次の点でプラス材料となります。
- 家計の金融資産が増えたという安心感
- 退職金や運用資産の評価額上昇に伴う買い替え需要の増加
- 住宅ローン負担への心理的ハードルの低下
- 富裕層を中心とした不動産投資需要の強化
特に、株式や投信を保有する40代以上の層にとって、株高は住宅買い替えやリフォームの後押しになりやすい環境です。
2. しかし、金利上昇が住宅需要を抑制している
2024年以降、金利が上昇傾向にあり、住宅ローンの負担感が増しています。
- 変動金利の上昇リスク
- 住宅ローン返済額の増加
- 不動産価格の高止まり
- 若年層の手取り減少による返済余力不足
株高がプラスの心理効果を与えても、金利上昇がそれを相殺している構図があります。特に若年層は返済負担の増加が大きく、住宅購入に慎重な動きが続いています。
3. 富裕層は住宅投資・別荘需要を増やす傾向
株価が上昇すると、富裕層の住宅関連消費が動きやすくなります。
- 都心高級マンションの購入
- 別荘・セカンドハウス需要
- 賃貸用不動産への投資
- リノベーションや高級設備投資の拡大
富裕層の場合、ローンではなく自己資金で購入するケースも多いため、金利上昇の影響を受けにくいことが特徴です。
株高は富裕層の住宅関連消費を刺激する一方で、中間層・若年層には負担を増やし、二極化を深める要因にもなっています。
4. 自動車市場:超高級車は絶好調、マス市場は慎重姿勢
自動車市場では、高級車と大衆車で動きが分かれています。
【富裕層】
フェラーリ、ロールス・ロイス、ランボルギーニなど「超高級車」が過去最高の販売。株高の資産効果が直接反映されている分野です。
【一般市場】
軽自動車・コンパクトカーは、以下の理由から伸びが鈍化。
- 車両価格の上昇
- 保険料・維持費の増加
- 住宅費との両立が難しい
- 若年層の車離れの継続
高額品市場は株高で活発になる一方、一般家庭のマイカー購入は慎重になっています。
5. 家電・リフォーム市場は「プチ贅沢」と「節約志向」に分かれる
株高による安心感や在宅需要の定着で、次のような分野は堅調です。
- 高級家電(大型テレビ、ドラム式洗濯機、オーブン、空気清浄機)
- キッチンや浴室のリフォーム
- 省エネ家電への買い替え
一方で、節約志向の家庭では大型家電の買い替えを後回しにする動きもあり、二つの市場が併存しています。
6. 今後の住宅・耐久財市場を左右する要素
株高だけでは住宅・耐久財消費の方向性は決まりません。今後重要となるのは次の三点です。
(1)金利の方向性
金利が上がれば住宅ローンの返済負担が増し、中間層・若年層の購入意欲はさらに低下します。
(2)賃上げがどこまで進むか
年度ごとの賃上げが、住宅購入の可否を大きく左右します。
(3)物価の安定
物価高が続けば、住宅費や耐久財に回る余力は削られます。
株高だけでは購入行動を強く押し上げにくく、家計環境全体のバランスが重要です。
結論
株高は住宅市場や耐久財市場を押し上げる力を持っていますが、金利上昇・物価高・賃金停滞といった要因が複雑に絡み、家計によって反応が大きく異なっています。富裕層では高級住宅や超高級車、リフォーム需要が強まる一方、中間層や若年層は住宅ローン負担の増加に直面し、慎重な判断が続いています。
株高のプラス効果を住宅・耐久財市場全体に広げるためには、賃上げや負担軽減策といった家計基盤の強化が不可欠です。株価だけでなく、金利・物価・収入という総合的な環境が、今後の大型消費の行方を左右することになります。
参考
・日本経済新聞「株高で高額消費活況 消費増効果1.5兆円試算も」(2025年12月8日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
