第5回 暮らしと将来世代への影響 ― 「給付付き税額控除」で何が変わるのか?

政策
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これまでの連載で、「給付付き税額控除」という制度の仕組み、与野党の思惑、消費税との関係、そして社会保障と税の一体改革の必要性を見てきました。

今回は最終章にあたる第5回として、生活者の視点に立ち、「実際にどんな世帯にメリットがあるのか」、また「将来世代にどんな意味があるのか」を考えてみましょう。


1. 子育て世帯の場合

共働きが増える一方で、子育てと仕事の両立は大きな課題です。

想定ケース

  • 夫:年収300万円(正社員)
  • 妻:パート年収100万円(「年収の壁」を意識)
  • 子ども2人

この世帯は、妻が「103万円の壁」や「106万円の壁」に引っかからないように就労時間を調整している典型例です。

給付付き税額控除の効果

  • 所得税の控除を受けきれない妻のパート収入にも給付が発生
  • 結果として「少し多く働いても損をしない」構造になる
  • 働き方の制約が緩和され、世帯全体の収入を増やしやすくなる

これは「年収の壁」問題を緩和し、子育て世帯の働き方の選択肢を広げる可能性があります。


2. 非正規雇用やフリーターの場合

非正規雇用で収入が不安定な人々は、従来の所得控除の恩恵が小さく、税金の仕組みから取り残されがちです。

想定ケース

  • 年収150万円の単身フリーター
  • 税額控除を受けてもそもそも税額が少なく、恩恵が小さい

給付付き税額控除の効果

  • 控除しきれない部分が給付として戻ってくる
  • 実質的な「所得の底上げ」となる
  • 働く意欲を削がず、最低限の生活を支える

これにより「働いても貧困から抜け出せない」というワーキングプア問題の改善につながると期待されます。


3. 高齢者世帯の場合

高齢化が進む日本では、年金と貯蓄で暮らす高齢者世帯が増えています。

想定ケース

  • 年金収入:月12万円
  • 医療費や介護費の負担が重い

給付付き税額控除の効果

  • 年金だけでは税額控除の恩恵をほとんど受けられない世帯に、給付という形で支援が届く
  • 高齢者の医療・介護負担増に対する「補助」の役割を果たす

ただし、対象範囲をどう設定するか(年金収入をどこまで加味するか)は制度設計上の大きな課題になります。


4. 高所得層とのバランス

一方で、高所得層には大きなメリットはありません。

  • 消費税ゼロのような「一律減税」なら支出が多いほど得をするが、給付付き税額控除は低所得〜中所得層に集中するため恩恵が限定的。
  • その分、「公平感」が生まれる。

ただし、「自分は恩恵を受けられないのに負担ばかり増える」という不満が広がれば、制度への理解を得にくくなる可能性もあります。


5. 将来世代への意味

給付付き税額控除は「今の世代への支援」であると同時に、「将来世代への布石」でもあります。

  • 一律減税やバラマキ給付に比べて、財政への負担を抑えられる
  • 本当に必要な層に支援を集中させることで、社会保障費の持続性を確保できる
  • 将来世代が背負うツケを軽減できる

つまり、短期的には「家計の支え」、長期的には「制度の持続可能性」という二重の意味を持つのです。


6. 制度への期待と課題

ここまで見てきたように、給付付き税額控除には大きな期待がありますが、課題も残されています。

期待される効果

  • 年収の壁を超えやすくなり、働き方の自由度が広がる
  • 非正規やフリーターの所得を下支え
  • 高齢者の医療・介護負担を一部補う
  • 将来世代へのツケ回しを減らす

課題

  • 所得や資産を正確に把握できるか(マイナンバー制度との連動が前提)
  • 不正受給をどう防ぐか
  • 行政の事務コストが膨らむリスク
  • 「支援を受けられる人」と「受けられない人」の境界で不公平感が生まれないか

まとめ

  • 給付付き税額控除は、子育て世帯・非正規雇用・高齢者世帯などに具体的なメリットがある
  • 高所得層とのバランスや制度設計の難しさは課題
  • 将来世代にとっては、社会保障制度を持続可能にするための重要な一歩
  • 「今の暮らしを支えながら、未来にツケを回さない」仕組みになれるかどうかが最大の焦点

おわりに

これでシリーズの本編(全5回)は完結です。次回は「まとめ編」として、これまでの議論を整理しつつ、今後の展望を描きます。


📖参考

  • 日本経済新聞「自公立維から社保と税一体改革論 『給付付き控除』皮切りに」(2025年10月2日付)
  • 厚生労働省「社会保障費の推移」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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