■ 給与だけでなく「株でも報われる」社会
「給与」と「株式」――。
これまで別の世界にあった2つが、いまや一体化し始めています。
丸紅や第一生命のように、働く人が自社の株主になる仕組みが広がるなかで、
日本社会でも「社員が資本家になる」という意識の変化が起きています。
けれども、実はこの流れを数十年前から実現している国があります。
北欧のスウェーデンです。
■ “みんなのファンド”が生んだ投資文化
1980年代、スウェーデン政府は国民の資産形成を促すために、
税制優遇つきの「みんなのファンド(Allmänna Pensionsfonder)」を創設しました。
🔹仕組みはシンプル
- 給与の一部を積み立てて投資
- 運用先は政府が認めた投資信託など
- 運用益には税の優遇措置
これにより、国民の大半が投資信託を保有するようになり、
「貯蓄」ではなく「運用」で資産を増やすことが当たり前になりました。
現在、スウェーデンでは
家計の金融資産の約9割が株式・投信などの金融商品で構成されています。
まさに「国民全員がファンドマネジャー」と呼ばれる社会です。
■ 投資が“挑戦”を支える土壌に
投資文化が根づいた結果、スウェーデンではスタートアップが次々と誕生しました。
音楽配信の「Spotify」や、フィンテック企業「Klarna」など、
世界的なユニコーン企業を生み出した背景には、
「国民が株主としてリスクを分かち合う」文化があります。
“挑戦する人”を“投資で支える”社会。
それがスウェーデンの強さの源泉です。
国民全体が資本の側に立つことで、
経済の成長と個人の豊かさが同じ方向を向く構造になっているのです。
■ 日本が学べる3つのポイント
スウェーデンの事例から、日本が学べる点は多くあります。
なかでも重要なのは次の3つです。
1️⃣ 税制と制度の整備
→ NISAやiDeCoの拡充が日本版「みんなのファンド」になり得る。
2️⃣ 教育の充実
→ 学校での金融教育、社会人向けリテラシー講座の拡大。
3️⃣ 企業文化の変化
→ 「従業員も株主」として企業価値を共有する仕組みづくり。
これらが揃えば、日本でも“資本で報われる働き方”が自然に根づいていくはずです。
■ 「資本家=お金持ち」ではない時代に
かつて「資本家」という言葉は、
大企業の経営者や富裕層を指すものでした。
しかし今では、
給与の一部を投資に回す会社員、
NISAで少しずつ積み立てる主婦、
iDeCoで老後資金を育てる自営業者――
これらすべてが“新しい資本家”です。
資本の民主化が進めば、格差ではなく「参加」が広がります。
誰もが経済の一部を持ち、支える時代がやってくるのです。
■ 未来へのメッセージ ― “資本家化”は自分ごと
東京大学の楡井誠教授はこう語ります。
「利益を分かち合えるようになるだけでなく、
さまざまな立場の人々が株主として関わることで、
経営に社会的な目が行き届くようになる。」
“全員が資本家”という社会は、
単にお金の話ではありません。
それは、経済を他人事にしない社会のこと。
私たち一人ひとりが「投資を通じて社会に参加する」新しい形です。
■ まとめ:働く人が未来をつくる
給与で暮らし、株で未来を育てる。
その両輪が回り始めた今こそ、
“運用貧国”から“運用立国”へと進むチャンスです。
働く人が資本家になる。
それは、未来を他人に任せず、自分でデザインするということ。
「はたらく人の“資本家化”入門」シリーズは、
その第一歩を一緒に考えるための小さなきっかけになれば幸いです。
📚 出典:
2025年10月19日 日本経済新聞朝刊
「資本騒乱 さらば運用貧国(5)株式報酬、従業員を資本家に」
および スウェーデン金融監督庁(Finansinspektionen)年報 等
🎯 シリーズ一覧(完結)
1️⃣ 第1回 「給料だけじゃない」時代へ ― 株式でもらう働き方が始まった
2️⃣ 第2回 ピケティの“r>g”をやさしく読む ― 資本で差がつく理由
3️⃣ 第3回 会社から株でもらう報酬 ― 持株会・ストック報酬のしくみ
4️⃣ 第4回 自社株のリスクと賢い付き合い方
5️⃣ 第5回 “全員投資家”の社会へ ― スウェーデンに学ぶ未来の働き方
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
