第4回 遺言書作成のステップと準備すべき書類(遺言書と人生デザインシリーズ)

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遺言書を書くと決めても、いざ取りかかろうとすると「何から始めればいいのか分からない」という声をよく聞きます。実際、遺言書づくりは“書くこと”よりも“準備のプロセス”のほうが重要です。財産の把握、相続人の確認、記載方法、方式の選択——これらを正しく進めることで、遺言書は初めて効果を発揮します。

本稿では、税理士・FPとして
遺言書を作成するための5つのステップ
と、
必ず準備すべき書類一覧
を整理します。「準備の手順がわかれば、遺言書は怖くない」。そのことを実感していただけるはずです。

1.遺言書作成は“準備”が8割

遺言書づくりは、文章を整えることよりも、情報を整理し判断を固めることが本質です。
準備が整えば、方式に関わらずスムーズに作成できます。

ここでは、実務でも使っている5ステップを紹介します。


■ステップ1:法定相続人を確認する

遺言内容を決める前に、まず「誰が相続人になるのか」を把握することが絶対条件です。

法定相続人は、

  • 配偶者
  • 子(実子・養子)
  • 兄弟姉妹
    など、法律で明確に決まっています。

特に注意すべきケース

  • 再婚で前婚の子がいる
  • 養子縁組をしている
  • 事実婚で子はいない
  • 親族関係が複雑

法定相続人を把握することは、遺言の方向性を決める基礎となります。


■ステップ2:財産を“すべて”洗い出す

次に、遺言書の要となる財産を整理します。
ポイントは「漏れをなくすこと」です。

財産リストに記載する項目(例)

  • 預貯金
  • 不動産(土地・建物・登記情報)
  • 有価証券(株式、投信、債券)
  • 生命保険(死亡保険金の受取人も確認)
  • 車・貴金属・美術品
  • 貸付金・借金
  • デジタル資産(ネット証券、オンラインバンク、暗号資産)
  • 家具や日用品の“処分方針”

実務では、ここを丁寧に行うほど遺言書の質が上がります。

特に多い“抜け漏れ”

  • ネット証券の口座
  • 使っていない銀行の旧口座
  • 財形貯蓄
  • 企業型DC・iDeCo
  • 故人名義のままの不動産

財産リストは、遺言書だけでなく、
遺族の負担を軽減する“生前整理”にも役立ちます。


■ステップ3:財産の分け方の方針を決める

財産を洗い出したら、次に「誰に・何を・どれだけ渡すか」を考えます。

考慮すべきポイント

  • 配偶者の生活資金
  • 子どもの生活状況の違い
  • 不動産は誰が住むのか
  • 障害のある家族を優先したいか
  • 事業承継をどうするか
  • 二次相続まで考慮するか

特に重要なのは、不動産と預貯金のバランスです。
不動産は「分けにくい財産」なので、
他の財産と組み合わせて調整する発想が必要です。


■ステップ4:遺言書の方式を選ぶ

方式は、以下の3つから選びます。
第3回で詳しく説明しましたが、ここでは要点のみ再掲します。

  • 公正証書遺言(推奨)
     →最も安全・確実。法的効力が高い
  • 法務局保管制度付き自筆証書遺言
     →コストと安全性のバランスが良い
  • 自筆証書遺言
     →手軽だが要件不備や紛失リスクが大きい

「どれが良いか」は財産の内容・家族構成によりますが、
迷ったら公正証書遺言が基本です。


■ステップ5:遺言書に“思い”を書く(付言事項)

財産の分け方が崩れないよう記載することが遺言書の役割ですが、
もうひとつ大切な役割があります。

それが、付言事項(ふげんじこう)です。

付言事項とは、

  • なぜこの分け方にしたのか
  • 家族への思いや感謝
  • 今後の生活への願い
  • 相続人同士で協力してほしいという気持ち
  • 供養・葬儀・墓じまいの希望

などを記す自由記述欄です。

法的効力はありませんが、
相続人の心を柔らかくし、
不要な誤解を防ぐコミュニケーション効果があります。

遺言書を“心のある文章”にする重要な部分です。


2.遺言書作成に必要な書類一覧

遺言書を書き始める前に用意すべき書類を整理します。


■身分関係の書類

  • 本人の戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 戸籍の附票(住所履歴)
  • 住民票(自筆方式では必須ではないが推奨)

再婚・認知・養子などがある場合は、戸籍の読み取りが重要です。


■財産の書類

預貯金

  • 通帳・残高証明書
  • オンラインバンクのログイン情報(別途管理)

証券

  • 取引残高報告書
  • 銘柄一覧
  • 投資信託の評価額資料

不動産

  • 登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書
  • 公図
  • 間取り図(任意)

生命保険

  • 契約内容のお知らせ
  • 受取人情報

デジタル資産

  • アカウントリスト
  • 保有資産の概要(パスワードは別管理)

その他

  • 車検証
  • 貴金属・美術品などの写真や領収書
  • 事業用資産(法人の場合は決算書)

書類が揃うほど、遺言書の精度が上がります。


3.遺言書の内容を決める際の「5つの注意点」


① 財産の特定は“正確に”

「○○銀行の預金全部」
「自宅を長男に」

こうした書き方は、トラブルの元となります。

  • 支店名
  • 口座番号
  • 地番
  • 権利関係

まで正確に記載する必要があります。


② 家族が納得できる“理由”を残す

例えば、

  • 長男が同居して介護してくれたため
  • 障害があり生活資金を優先したい
  • 家業を継ぐ者を中心にしたい

など、理由を付言事項で示すことで、相続人の感情の衝突を減らせます。


③ 遺留分を理解しておく

相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。
意向と法律のバランスをとりながら作成する必要があります。


④ 二次相続を見据える

一次相続(夫 → 妻)では揉めない家庭も、
二次相続(妻 → 子)で問題が起きるケースが多いです。

遺言書は“1回だけのイベント”ではなく、
相続全体の設計図にすることが大切です。


⑤ 定期的に見直す

  • 家族の結婚離婚
  • 資産の増減
  • 不動産売却
  • 税制改正
  • 家族関係の変化

これらの変化に応じて、遺言書も更新が必要です。


結論

遺言書は、ただ文書を作るだけでは意味がありません。
「法定相続人の確認」から「財産の棚卸し」「方式の選択」「付言事項」まで、準備のプロセスこそが遺言書の価値を決めます。

  • 財産の特定を正確にする
  • 理由や思いを言葉にする
  • 将来の相続を俯瞰する
  • 専門家の力を借りる

これらを意識するだけで、遺言書は「家族の未来を守る道具」から、
“あなた自身が安心して生きるための道具”へと変わります。

遺言書は人生に一度の作業ではありません。
定期的な見直しを前提にしながら、
自分の気持ちが整理される“人生デザイン”のプロセスとして活用してください。


出典

・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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