■ 「自分の会社の株を持つ」ブームの裏で
近年、従業員持株会や株式報酬制度を導入する企業が急増しています。
丸紅では社員の96%が持株会に加入、第一生命では全社員に株式報酬を導入。
「会社の成長=自分の資産アップ」という構図が広がっています。
けれども、ここで見落としがちなのが――
「給与と株が同じ会社に依存している」というリスクです。
■ ① “二重リスク”に気をつけよう
たとえば、あなたが自社株を200万円分保有しているとします。
業績が悪化して株価が半分になれば、資産は100万円に。
そのうえで、ボーナスも減ったり、昇給が止まったりする可能性も。
つまり、
✅ 給与の減少 + ✅ 株価下落
の“ダブルパンチ”が起きるのが、自社株投資の怖いところです。
■ ②「分散投資」でリスクを分ける
このリスクを減らす方法は、シンプルです。
自社株を「全体の一部」として位置づけること。
たとえば――
- 自社株:全体資産の20〜30%まで
- 残りはNISA・iDeCoなどで他社株・投資信託・債券・預金へ
というように、
「自分の会社だけ」に偏らないようにすることが大切です。
また、株式報酬で付与された株は、
受け取ったあと一部を売却して現金化するのもリスク軽減の一つです。
「せっかくもらった株を売るのは申し訳ない」と感じる人もいますが、
それはリスク管理の一環として正しい判断です。
■ ③ タイミングより「仕組み」を大事に
株式を売るタイミングに悩む人も多いですが、
重要なのは「いつ売るか」ではなく、どうルール化するかです。
例:
- 株価が2倍になったら半分売る
- 受け取った株式報酬のうち3割は翌年に売却
- 毎年決算期ごとに評価を見直す
など、自分でルールを決めておけば、
感情に左右されずに冷静に判断できます。
■ ④ 税金の仕組みも知っておこう
自社株や株式報酬には、税金の扱いにも注意が必要です。
| 区分 | 税の種類 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 従業員持株会 | 売却益に20.315%課税(譲渡所得) | NISA口座で非課税も可能 |
| 株式報酬(信託型など) | 付与時は課税なし、売却時に課税 | 保有期間によって税負担が変わる |
| ストックオプション | 権利行使時に給与課税+売却時に譲渡課税 | 税務上の計算が複雑になりやすい |
特にストックオプションは、
「権利行使=課税発生」というタイミングを見落とすと、
思わぬ税負担に驚くこともあります。
👉 税理士や会社の人事・総務部門と相談しながら進めるのがおすすめです。
■ ⑤ 「感情」と「制度」を分けて考える
「自分の会社の株だから売りにくい」――。
そう感じる人は少なくありません。
でも、資産形成の目的は“会社への忠誠”ではなく、“生活の安定”です。
どんなに好きな会社でも、リスクを分けることは悪いことではありません。
むしろ、冷静に資産を管理できる人ほど、長期的に会社を支える存在になれます。
■ まとめ:信頼は“全財産を預ける”ことではない
「働く」と「投資」が重なる時代、
自社株を持つことは“会社への信頼”を形にする手段のひとつです。
でも、信頼とは“全財産を預ける”ことではありません。
大切なのは、リスクを知り、賢く距離を取ること。
「信頼しているからこそ、冷静に分散する」
それが、これからの時代の健全な“資本家マインド”です。
■ 次回予告
次回・最終回(第5回)は
「“全員投資家”の社会へ ― スウェーデンに学ぶ未来の働き方」。
北欧スウェーデンでは、国民のほぼ全員が投資信託を保有しています。
その背景にある「みんなのファンド」制度と、
日本が学ぶべき“投資文化のつくり方”を紹介します。
📚 出典:
2025年10月19日 日本経済新聞朝刊
「資本騒乱 さらば運用貧国(5)株式報酬、従業員を資本家に」
および 国税庁「給与所得・譲渡所得の課税関係」資料 等
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
