「給付付き税額控除」をきっかけに、再び注目されている「社会保障と税の一体改革」。
この言葉は少し硬い印象がありますが、要するに「社会保障(年金・医療・介護など)に必要なお金を、どのように税で支え合うか」という議論です。
そしていま、この改革が避けて通れない理由が 社会保障費の急増 にあります。今回は、社会保障費の現状と将来予測を軸に、一体改革の意味を整理してみます。
社会保障費はどれくらい増えているのか?
日本の社会保障費は年々増え続けています。
- 2000年度:78兆円
- 2020年度:120兆円
- 2025年度予算案:135兆円超
この25年間で実に 1.7倍 に膨らんでいます。背景にあるのは少子高齢化です。
- 65歳以上人口は現在3,600万人を超え、総人口の約3割。
- 医療費や介護費用は年齢とともに大きく増えるため、高齢化が進むほど社会保障費は自然に膨らみます。
つまり「国が何も新しい政策をしなくても、毎年数千億〜1兆円単位で増えていく」のが現実なのです。
財源はどこから来ているのか
社会保障費を支える財源は大きく分けて3つです。
- 保険料(年金保険料、医療保険料、介護保険料)
- 税金(主に消費税)
- 国債(借金)
特に消費税は「社会保障の安定財源」と位置づけられています。2014年に5%から8%、2019年に10%へ引き上げられたのもそのためです。
しかし、それでも足りず、国債(借金)で賄う部分が大きく残っています。いまや社会保障費の4分の1近くは借金頼みという状況です。
なぜ「一体改革」が必要なのか
社会保障費の増加は「自然増」と呼ばれ、放っておいても増えていきます。例えば2025年度は約1.3兆円の自然増が見込まれています。
このままでは、
- 現役世代への負担(保険料や税金)がどんどん増える
- 国債残高が膨らみ、将来世代へのツケ回しになる
という悪循環に陥ります。
そこで必要なのが「社会保障と税の一体改革」です。つまり、
- どこまで支えるか(給付の範囲)
- 誰がどれだけ負担するか(税や保険料の分担)
をセットで見直す、という考え方です。
「給付付き税額控除」が突破口になりうる理由
ここで前回までのテーマ「給付付き税額控除」が関わってきます。
社会保障費が増え続ける中で、単純な減税は財源を削るだけで持続性がありません。一方で、一律の給付は財政負担が重すぎます。
そこで「給付付き税額控除」のように、
- 低〜中所得層を中心に支援を集中させる
- 高所得者には必要以上の恩恵を与えない
という仕組みを導入すれば、限られた財源を効率的に使えます。
つまり、「負担と給付をセットで見直す一体改革」の一歩としてふさわしいと考えられているのです。
現役世代の負担が増えている現状
社会保障費の増大は、すでに現役世代の家計に直撃しています。
- 厚生年金保険料率は2004年から段階的に引き上げられ、2017年に18.3%で固定化。給与の約2割が年金保険料として差し引かれる。
- 医療保険料・介護保険料も年々上昇。特に40歳以上は介護保険料の負担が加わる。
- 住民税・消費税と合わせれば、可処分所得はじわじわ圧迫。
若い世代からは「自分たちが高齢者になる頃には制度が維持できないのでは」という不安が根強いのです。
将来世代へのツケ回し
借金(国債)に頼る財源調達は、結局は将来世代が返すことになります。
国と地方を合わせた長期債務残高はすでに 1,200兆円超。これはGDP(国内総生産)の約2倍に相当します。
このままのペースで社会保障費が増えれば、将来世代が背負う負担はますます重くなり、「持続可能な社会保障」とは言えなくなってしまいます。
生活者にとっての意味
では、この「一体改革」は私たちにどんな意味を持つのでしょうか。
- 短期的には負担が増える可能性
→ 消費税率の見直しや社会保険料の引き上げが検討されるかもしれません。 - 中長期的には安心を得られる
→ 制度が持続すれば、将来の年金・医療・介護への不安が軽減されます。 - 公平性が重視される
→ 本当に支援が必要な層に給付を集中し、「取りやすいところから取る」ではない制度が実現できるかがカギになります。
まとめ
- 社会保障費は25年間で1.7倍に増加、今後も自然増が続く
- 財源は保険料・税金・借金で支えているが、借金依存が深刻化
- 一体改革は「給付の範囲」と「負担の分担」をセットで見直す取り組み
- 給付付き税額控除は、その突破口になり得る制度
- 現役世代の負担増や将来世代へのツケ回しを防ぐために不可欠
次回は第5回として、「暮らしと将来世代への影響」 に焦点を当て、具体的にどんな世帯がメリットを得るのか、またどんな課題が残るのかを見ていきます。
📖参考
- 日本経済新聞「自公立維から社保と税一体改革論 『給付付き控除』皮切りに」(2025年10月2日付)
- 厚生労働省「社会保障費の推移」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
