――戦争・国際分断・エネルギー危機と金価格の深い関係
「有事の金買い」という言葉があります。戦争やテロ、国家間の緊張が高まるとき、投資家や一般市民は「金」に資産を移す傾向がある、という意味です。
金は紙幣と違って中央銀行が無限に発行できるものではなく、地球上に限られた量しか存在しません。そのため、国際秩序が揺らぐ局面では「最後の拠りどころ」として買われやすいのです。
戦争と金価格の相関
ウクライナ戦争
2022年にロシアがウクライナへ侵攻した直後、金価格は急騰しました。
背景には、次のような要因があります。
- ロシアへの制裁でドル資産が凍結されたことによる「ドル不安」
- 欧州経済への影響を懸念した投資家の安全資産シフト
- エネルギー価格上昇によるインフレ懸念
中東紛争
イスラエルと周辺国の緊張が高まると、原油価格と同時に金価格も上がることが多いです。中東は世界的なエネルギー供給の要であり、供給不安は即座に世界経済全体に波及します。こうしたとき、金は「国境を超えて価値を持つ資産」として注目されます。
国際分断と金
基軸通貨ドルの揺らぎ
国際政治の対立が深まると、基軸通貨ドルへの信頼が揺らぎます。
- ロシア制裁でドル資産が凍結
- 中国や中東諸国がドル資産を減らし、金や人民元にシフト
- 「脱ドル化」の流れが一部の新興国で加速
このような動きが世界の金需要を押し上げています。金は「政治的に中立な資産」として、国際的な分断が深まるほど重要性を増しているのです。
エネルギー危機と金
エネルギー市場の混乱も金価格に影響します。
- 原油高騰とインフレ
原油価格が急騰すると、輸送・生産コストが上がり、インフレ圧力が強まります。インフレに強い資産として金が買われやすくなるのです。 - 資源ナショナリズム
各国が資源確保に動くと、国際協調よりも自国優先の政策が強まります。市場の不安心理が広がると、金への資金シフトが起きます。
歴史的な事例
1970年代のオイルショック
中東戦争を背景に原油価格が急騰した1970年代、世界は「スタグフレーション(不況+インフレ)」に陥りました。この時期、金価格も急騰し、実物資産としての強さを示しました。
2001年の同時多発テロ
アメリカでの同時多発テロ発生直後、株式市場が急落する中で金価格は上昇。政治的・軍事的リスクが市場を直撃した例です。
現在の地政学リスクと金
2020年代の今、金価格を押し上げる要因は複合的です。
- ウクライナ戦争
- 中東の不安定化
- 台湾海峡を巡る緊張
- 国際経済の分断(米中対立、経済制裁)
これらはすべて「通貨や株式ではカバーしきれない不安」であり、その受け皿として金が選ばれています。
税理士・FPの視点:有事リスクと個人資産
地政学リスクはコントロールできません。しかし、個人レベルで「備える」ことは可能です。
- ポートフォリオに金を一部組み入れる
世界情勢に左右されにくい資産として、全体の安定化に寄与します。 - 長期的なリスクヘッジと割り切る
金価格は短期的に大きく変動するため、「リスクヘッジ資産」としての役割に徹するべきです。 - 相続・贈与を意識する
有事の混乱で資産承継が難しくなることを考えれば、金を金融商品で持つ選択も合理的です。
まとめ:地政学リスクと金の関係は切っても切れない
戦争、国際分断、エネルギー危機――こうした「国境を超えるリスク」が高まるとき、金はいつの時代も買われてきました。
有事は避けられないとしても、私たちができるのは「備え」です。株や債券だけでなく、金を資産の一部に取り入れることで、不安定な時代を乗り越える力を持てるのではないでしょうか。
📌 参考資料
- 日本経済新聞 2025年9月14日付「金の高騰は世界の複合リスクへの警鐘だ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
