第4回 医療・介護体制から考える「安全な老後の住まい」

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定年後の住まい選びで、最も慎重に考えるべきテーマが「医療」と「介護」です。60代の時点では健康に自信がある人でも、70代後半〜80代になると、医療アクセス・介護サービスの有無・家族のサポート状況が生活の質と安全性を大きく左右します。

都会か地方か――。
老後の暮らしをどこに置くかは、“健康寿命”と“要介護リスク”という二つの観点から再評価する必要があります。本稿では、医療・介護体制の観点から「老後、安全に暮らせる地域とは何か」を整理します。

1. 老後の生活は「医療密度」で決まる

老後の住まいを考える上で、まず知っておきたい概念が 「医療密度」 です。医療密度とは、ある地域にどれだけ医療資源(病院・診療所・専門医・救急体制)が集まっているかを示す指標です。

●医療密度が高い地域の特徴

  • 病院・診療所が徒歩圏に多数
  • 専門医にアクセスしやすい
  • 高度医療機関(総合病院・大学病院)が近い
  • 救急搬送の到達時間が短い
  • 在宅医療・訪問看護の事業所が多い

これは都市部が圧倒的に強い領域であり、健康寿命にも直結します。

●医療密度が低い地域のリスク

  • 通院に車必須
  • 病院が遠い
  • 専門医が限られる
  • 待ち時間・予約が取りにくい
  • 緊急時に対応できる医療機関が少ない

地方は自然環境が良くても、医療アクセスの弱さが老後の不安要因になりやすいといえます。


2. 「通院のしやすさ」は年齢とともに重要度が上がる

60代前半では年に数回の通院でも、80代になると

  • 月1〜2回の通院
  • 慢性疾患の治療
  • リハビリ
  • 薬の受け取り
    が必要になります。

●通院負担が生活の自立度を左右

通院に

  • 車が必要
  • バスが1〜2時間に1本
  • 駅が遠い
    という環境だと、
    免許返納=生活困難
    になりかねません。

●徒歩圏で完結する都市生活の強さ

都市部は、

  • 徒歩5〜10分圏に診療所
  • 15〜20分圏に総合病院
    が集積しており、通院の負担が極めて小さいのが特徴です。

これは老後の“安心感”に直結します。


3. 介護体制の整った地域を選ぶ

老後の住まいを考える際、医療だけでなく介護体制も極めて重要です。

●介護体制が整っている地域の特徴

  • 地域包括支援センターが複数
  • 介護サービス事業所(訪問・通所・デイケア)が多い
  • ケアマネジャーが充足
  • 特別養護老人ホーム・有料ホームの選択肢が多い
  • 在宅介護と施設介護の連携が強い

都市部ほど事業所数が多く、選択肢が豊富です。

●地方の介護の課題

  • 事業所数が少ない
  • 人材不足でサービス提供が不安定
  • 送迎距離が長く負担
  • 施設の選択肢が限られる
  • 家族が遠方でサポートが得にくい

地方暮らしが“心豊かな生活”につながる一方、介護が必要になった際の環境差は非常に大きいのが現実です。


4. 在宅介護か、施設介護か

老後は、健康状態の変化によって「在宅中心」か「施設中心」かの判断が必要になります。

●在宅介護向きの地域

  • 近くに訪問看護・訪問介護事業所が多い
  • 病院が近い
  • 家族が同じ市区町村にいる
  • 公共交通で通院できる

都市部は在宅介護との相性が良く、サービスの密度も高いです。

●施設介護向きの地域

  • 近くに特養・老健・有料ホームが多い
  • 介護費用が高齢者の収入に合う
  • 緊急搬送が早い

都市部の施設介護は費用が高い場合がありますが、選択肢は豊富です。

地方の施設は費用が安い場合も多く、「地方の特養へ移る」というパターンも現実的です。


5. 早めの「地域包括支援センター」とのつながりが老後リスクを減らす

地域包括支援センターは、

  • 介護
  • 医療
  • 福祉
  • 見守り
    の拠点であり、高齢者の暮らしの安全網です。

●包括支援センターが充実する地域は“安心して老後を過ごせる地域”

都市部は人口が多いため、包括センターが細かく配置されています。
一方、地方では担当区域が広い場合があり、きめ細かい支援が難しいケースもあります。

老後の住まいを考える際は、
「自宅~最寄りの地域包括支援センターの距離」
を確認するのが良い判断材料になります。


6. 「子どもの住む地域」に近づくという選択肢

老後の住まいでは、「家族との距離」も医療・介護と同じくらい重要な要素です。

●子どもが都市部に住むケースが増えている

  • 大都市圏の雇用が強い
  • 教育環境が整っている
    ため、子どもが大学進学以降そのまま都市部に定住するケースが多く見られます。

そのため、
親も都市部へ移り住む
という選択は合理的です。

●子どもと同じ地域に住むメリット

  • 緊急時のサポートが早い
  • 介護判断がしやすい
  • 孫との交流が増える
  • 転院・施設探しがスムーズ

老後の住まいは、自分の暮らしだけでなく「家族の負担」を最小化する観点も必要です。


7. 結局、医療と介護の観点からみて“安全”な地域とは?

医療・介護の専門家が共通して指摘するのは、
次の4条件が揃う地域が“安全な老後の住まい”であるということです。

●安全な老後の住まいの4条件

  1. 徒歩圏に医療機関がある
  2. 公共交通だけで生活が成立する
  3. 介護サービス事業所の数が十分
  4. 家族が1時間以内で来られる距離

都会は1〜4を満たしやすい構造になっています。
一方、地方は自然環境は豊かでも、1〜3の条件を満たす地域は限定的です。

重要なのは、
「自分が最終的にどんな暮らしを求めるか」
「どんな健康リスクを抱える可能性があるか」

をもとに選択することです。


結論

老後の住まい選びで“最も重要なテーマ”は、医療と介護です。
これは生活の質だけでなく、寿命や生活の自立度に直結します。

都会は医療密度が高く、介護サービスが豊富で、公共交通が発達しているため、
老後の安全性を最重視する場合は最も合理的な選択肢です。

一方、地方の魅力(自然・ゆとり・生活費の安さ)も捨てがたく、家族構成や価値観によって最適解は異なります。

次回は、老後に欠かせない視点である
「生活コスト ― 都市と地方でどう違うのか」
を取り上げていきます。

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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