これまでの連載では、
- 第1回:租税特別措置(租特)の仕組み
- 第2回:日本維新の会による教育財源論
- 第3回:自民党総裁選での候補者の立場の違い
を整理してきました。最終回となる今回は、今後の政治日程やシナリオを踏まえながら、「教育か経済か、それとも両立か」という大きな問いを考えてみます。
今後のスケジュール
まず直近の動きを押さえておきましょう。
- 10月中
私立高校への就学支援金の制度設計の大枠を正式に決定。対象外となる「日本に定住見込みのない留学生」や「インターナショナルスクール通学の外国籍生徒」についても整理されます。 - 10月4日以降
新しい自民党総裁が選出され、その下で財源論が本格化。維新をはじめ野党との協議が注目されます。 - 2026年度
無償化制度の拡充が実際にスタート。数千億円規模の恒久的な財源をどう確保するかが決定的に問われます。
つまり、この1年で租特の見直しの方向性が固まる可能性が非常に高いのです。
シナリオ① 教育優先型(租特削減で財源確保)
維新が強く訴えるのはこのシナリオです。
- 研究開発税制や賃上げ促進税制の一部を削減
- 毎年数千億円を捻出し、教育財源に充当
- 「既得権益の解消」と「教育無償化」を同時に実現
このシナリオのメリットは、国民にわかりやすく「教育のために無駄を削った」という説明ができる点です。特に家計を直接助ける教育政策は支持を集めやすく、選挙対策としても有効です。
一方で、企業の投資意欲や賃上げの流れを止めてしまうリスクがあります。経済界からの反発は必至であり、景気減速につながる可能性も否定できません。
シナリオ② 経済優先型(租特維持・拡充)
小泉・林ラインが想定するのはこのシナリオです。
- 租特は「新しい資本主義」の成長エンジンとして維持・拡充
- 賃上げや研究開発をさらに後押し
- 教育財源は別の歳出削減や国債発行で対応
このシナリオは、経済成長を最優先する立場です。企業が投資や賃上げを続ければ税収増につながり、結果的に教育財源も確保できる、という「成長の果実を分配」モデルです。
しかし、すぐに必要となる教育財源を確保できる保証はありません。「教育無償化は先送り」という批判を受けやすいのが弱点です。
シナリオ③ 両立型(効果的な租特だけ残す)
現実的な落としどころとして考えられるのがこのシナリオです。
- 効果が不明確、または実効性の低い租特を縮小・廃止
- 成果が見込める研究開発税制や中小企業向けの賃上げ税制は維持
- 捻出された財源を教育無償化に充てる
このシナリオは「教育と経済の両立」を図るもので、透明性の向上も含めて国民に理解されやすい方向性です。
ただし、どの制度が「効果的」でどの制度が「不要」なのかを客観的に判定するのは容易ではありません。省庁や業界団体の利害が絡み、調整に時間がかかるリスクも大きいでしょう。
「教育か経済か」は本当に二者択一か?
ここで改めて考えてみたいのは、「教育と経済は本当に二者択一なのか?」という点です。
教育投資は人的資本を高め、長期的には経済成長の土台になります。逆に、経済が低迷すれば教育予算も削られやすくなります。つまり、教育と経済は対立するものではなく、むしろ相互補完の関係にあるのです。
本来問われているのは、「限られた財源をどう配分し、どう透明性を高めるか」という政治の意思決定力そのものだといえるでしょう。
まとめ
- 今後1年で租特見直しの方向性が固まる可能性が高い
- シナリオ①:教育優先型(租特削減で財源確保)
- シナリオ②:経済優先型(租特維持・拡充)
- シナリオ③:両立型(効果的な部分だけ残す)
- 教育と経済は対立構造ではなく、本来は相互補完的な関係にある
📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
