第3回 政府×日銀×市場の行方― 「責任ある積極財政」が試されるとき

政策

高市早苗氏の自民党総裁就任を受け、市場は早くも反応を見せています。

週明けの日経平均株価は史上初の4万6000円台を突破するとの予想もあり、「高市ラリー」と呼ばれる期待感が広がりました。

一方で、財政拡張による金利上昇リスク円安の行き過ぎを懸念する声もあります。
「責任ある積極財政」というフレーズは、まさにこのバランスをどう取るか、という政権の覚悟を映しています。


◆ “積極財政”と金融政策の微妙な距離感

高市氏は会見で、

「金融政策の手段は日銀が決めるが、経済・金融政策の方向性を決める責任は政府にある」
と発言しました。

この一言には、「政府と日銀の対話を密にする」というメッセージと同時に、「日銀任せにしない」という強い意思が感じられます。

現在、日銀の植田総裁は金融正常化の途上にあり、市場では年内利上げ観測も出ていました。
しかし高市氏の誕生で、「利上げは後ずれする」との見方が優勢になっています。


◆ 市場の読み:円安・株高の一方で、国債市場は慎重姿勢

識者の見方を整理すると、次のようになります。

  • 加藤出・東短リサーチ
     → 利上げは2026年に持ち越される可能性。財政拡張は円安を進める。
  • 岩下真理・野村証券
     → 利上げ路線は変わらないが、タイミングは慎重に。閣僚人事や連立協議の行方が不透明。
  • 市川雅浩・三井住友DSアセットマネジメント
     → 積極財政と緩和的金融環境が同時進行すれば、株式市場には追い風。

つまり、短期的には株高・円安が進むが、長期的には金利上昇圧力がじわりと高まる
というのが市場の共通した見立てです。

防衛・AI・半導体関連株などは物色が続く一方で、外国人観光客に依存する百貨店・航空株にはやや慎重な見方も出ています。


◆ 財政と市場、信認の境界線

高市政権が直面する最大のリスクは、「財政拡張が過度とみなされ、国債の信認が揺らぐ」ことです。

とくに旧暫定税率の廃止や、所得税の基礎控除引き上げなど、恒久減税を伴う政策を同時に進める場合、
財源の裏付けが欠かせません。

もし市場が「日本は再び財政規律を緩めた」と受け取れば、円売り・国債売りの動きが強まる可能性があります。

財政政策と金融政策は、同じ方向を向いているようで、
実は常に“緊張関係”にあります。

「政府は支出を増やし、日銀は金利を抑える」。
この構図が長く続くと、最終的にツケは通貨価値の下落として現れます。


◆ 企業トップの声に見る“現実感”

経済界からは、期待と注文が入り交じった声が相次ぎました。

  • ローソン 竹増社長
     「女性初の新総裁として、新しい風を起こしてもらいたい」
  • ファミリーマート 細見社長
     「政治の停滞を断ち切り、スピード感ある実行を」
  • キヤノン 御手洗CEO
     「AI・半導体・量子技術など成長投資を思い切って進めてほしい」
  • セブン-イレブン 阿久津社長
     「賃金と消費の好循環を作り、安心して暮らせる社会に」

どの発言にも共通しているのは、“スピード感”と“方向性の明確さ”への期待です。

物価高の長期化に苦しむ企業にとって、「補正予算の早期執行」と「成長投資の道筋」は生命線。
財政政策の“即効性”と“持続性”を両立できるかが試されます。


◆ 党員・有権者のまなざし ― 「期待」と「不安」のはざまで

自民党員の間では、「女性の強みを政策に生かしてほしい」という期待と同時に、「少数与党で政策が進むのか」という不安の声も上がっています。

参院選での大敗から立て直すには、党内融和と同時に、“政治とカネ”の問題に対する明確な改革姿勢が不可欠です。

政策だけではなく、政治そのものへの信頼回復。
そこを避けては、どんな積極財政も国民の支持を得られません。


◆ 「責任ある積極財政」は“バランスの芸術”

経済の現場、金融市場、そして国民の暮らし。
それぞれが求める方向は時に逆を向きます。

  • 家計は物価高を抑えてほしい。
  • 企業は成長投資の支援を求める。
  • 市場は財政規律を重視する。

この三者のバランスをどう取るかこそ、
「責任ある積極財政」の本当の意味です。

高市政権は、
短期的な景気対策と中長期の財政再建を両輪で動かせるか、そして日銀との“緊張と協調”をどう演出できるか――
ここに政治の手腕が問われます。


◆ まとめ ― 「スピード」「透明性」「対話」

新政権に求められるのは、

  • スピード:補正予算と制度設計の迅速化
  • 透明性:財源・支出の根拠を明確にする
  • 対話:政府・日銀・与野党・国民の合意形成を重ねる

政治の信頼は、一夜で回復しません。
しかし、“見える政治”を続ければ、
経済にも生活にも確かな安心が戻ってきます。

「積極財政」という言葉が、単なるスローガンで終わるのか、それとも“再生の旗”になるのか。

次の臨時国会で示される補正予算案が、その答えを映す試金石になるでしょう。


📘 出典
2025年10月4日 日本経済新聞朝刊
「高市新総裁 市場の見方」「積極財政鮮明に」「企業トップの声」「党員の声」ほか


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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