転職が一般的になった今、「企業型確定拠出年金(DC)」や「iDeCo」を転職のたびにどう扱うかを整理できている人は意外と少ないのではないでしょうか。
特に、3回・4回と転職を重ねている人ほど、過去の年金資産がどこにあるか分からなくなりがちです。
本稿では、複数の転職を経た人が年金資産をどう管理し、損を防ぐかを具体的に解説します。
■ 1. 転職のたびに“年金口座”が増える構造
企業型DCは、勤務先が拠出する掛金を従業員が自ら運用する制度です。
退職・転職をすると、その会社でのDC口座は「加入資格を喪失」し、新しい勤務先でまた新しいDC口座が開設されます。
つまり、
- 転職前:A社の企業型DC
- 転職後:B社の企業型DC(またはiDeCo)
という形で、資産が複数の口座に分散していくのです。
転職時に移換手続きをしないと、前職の資産が国民年金基金連合会に「自動移換」されることは、前回の記事で触れたとおりです。
放置してしまうと、資産は運用されず手数料で目減りしていきます。
■ 2. 複数DC・iDeCoの“重複加入”に注意
意外に多いのが、「転職先でもDCに加入しながら、iDeCoの掛金も続けてしまっている」ケースです。
企業型DCとiDeCoは原則併用できないため、重複加入になると税制優遇が受けられなくなる場合があります。
✅ 併用できるかどうかのチェックポイント
- 転職先の企業型DCが「マッチング拠出あり」→ iDeCoとの併用は不可
- 「マッチング拠出なし」→ iDeCoの掛金上限は月2万円まで可能
- 企業型DCがない企業に転職した場合 → iDeCoにフル加入(月2.3万円まで)できる
企業年金の加入状況によってiDeCoの上限額が変わるため、必ず企業年金の規約と勤務先の人事担当者への確認が必要です。
■ 3. 「年金ポータル」で全体像を可視化
転職が多い人ほど、「どこの会社で、どんな制度に入っていたか」を一覧で把握するのが大切です。
そのための便利なツールが、「年金ポータルサイト(ねんきんネット+iDeCo・企業年金連携)」です。
- 公的年金(厚生年金・国民年金)の加入履歴
- 企業年金・iDeCoの残高・運用状況(対応金融機関のみ)
これらをオンラインで確認できます。
特に2024年以降は、マイナポータルと連携した「年金情報一元管理」の仕組みが拡充しており、転職をまたいだ資産の確認が容易になっています。
■ 4. 「転職時にやること」チェックリスト
年金を整理する際は、以下の手順を転職ごとにルーチン化しておくと安心です。
| タイミング | やること | 提出先 |
|---|---|---|
| 退職時 | 企業型DCの資格喪失通知書を受け取る | 前職の人事担当 |
| 退職後6カ月以内 | 移換先を決定(転職先DCまたはiDeCo) | 金融機関または新勤務先 |
| 新勤務先決定後 | DC加入手続きを完了 | 新勤務先のDC担当 |
| 自動移換通知を受け取った場合 | iDeCoまたは新DCへ資産移換を申請 | 国民年金基金連合会 |
| 年1回 | ねんきんネットで加入履歴を確認 | 日本年金機構 |
この一覧をチェックリスト化しておくことで、「気づいたら放置していた」というリスクを大幅に減らせます。
■ 5. 長期的な戦略 ― 「キャリア×資産形成」を一体で考える
転職を繰り返すほど、年金制度の管理は複雑になります。
しかし見方を変えれば、運用商品を選び直すチャンスでもあります。
転職の節目ごとに
- 資産配分(株式・債券の比率)
- 手数料水準
- ファンドの実績
を見直すことで、老後資産の質を高めることができます。
「キャリアの節目=資産設計の見直しのチャンス」と捉えることが、これからの時代の働き方に合った年金管理法といえるでしょう。
結論
転職のたびに年金資産が分散し、手続きを怠ると「放置年金」として眠ってしまいます。
しかし、制度を理解して正しく移換すれば、確定拠出年金は一生モノの資産形成ツールとして活かすことができます。
「転職のたびに整理」「制度の違いを理解」「年金ポータルで見える化」
この3つを意識すれば、どんなキャリアを歩んでも“積み上げる年金”を続けることができます。
出典
- 日本経済新聞「確定拠出年金『放置』3300億円」(2025年10月28日付)
- 国民年金基金連合会「企業型DCからiDeCoへの移換手続き」
- 金融庁「iDeCoナビ」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
