消費税は「消費者が負担する税」でありながら、実際に国や自治体に納めるのは事業者です。つまり、私たちがスーパーやレストランで支払った消費税は、一度その企業に「預けられる」形を取っています。
この「預かり金」という性質こそが、消費税滞納の最大の要因です。なぜなら、資金繰りが厳しい企業にとって「手元にある消費税」は、魅力的な“最後の現金”だからです。
消費税の仕組み:預かって納めるまで
まず、消費税の基本的な流れを整理してみましょう。
- 消費者が商品やサービスを購入
→ 価格に上乗せされた消費税を一緒に支払う。 - 事業者が消費税を受け取る
→ 売上に含まれる消費税を「預かる」。 - 仕入れや経費で支払った消費税を控除
→ 「受け取った消費税 − 支払った消費税 = 納める税額」 - 国や自治体に納付
→ 納付時期は年1回、年2回、年4回など売上規模によって異なる。
この仕組みでは、消費者が支払った消費税は納付時期まで企業の口座に残ります。つまり、一時的に企業のキャッシュフローに組み込まれてしまう のです。
なぜ「預かり金」に手を付けてしまうのか
理屈の上では、企業はこの消費税を別枠で管理し、決して運転資金に使ってはならないはずです。しかし、現実にはそうはいきません。
1. キャッシュフローが逼迫している
赤字企業でも売上があれば消費税は発生します。たとえ利益が出ていなくても、納付時期になれば必ず支払わなければなりません。
- 人件費や家賃など、待ってくれない支出がある
- 銀行融資が受けにくい中小企業ほど現金不足に陥りやすい
結果的に「納付までのつなぎ」として消費税に手を付けざるを得なくなります。
2. 納付時期にタイムラグがある
小規模事業者であれば、納付は年1回や年2回で済みます。すると、消費税は長期間「手元資金」として残ることになります。
- 1年間で数百万円規模の消費税が積み上がる
- 目の前の資金ショートを防ぐために流用される
納付の猶予が、かえって滞納リスクを高めているのです。
3. 「自分のお金」と錯覚しやすい
消費税は売上に上乗せされて受け取るため、経営者が「自分の売上」と混同してしまうケースも少なくありません。特に小規模事業では会計処理がシンプルなため、消費税分を明確に区別できていないことがあります。
事例:資金ショートの典型パターン
例えば、ある飲食店を考えてみましょう。
- 月商 500万円(うち消費税 50万円)
- 人件費 250万円、家賃 50万円、食材費 150万円、その他経費 30万円
- 利益はほぼゼロ
この場合、毎月50万円の消費税を「預かる」ことになります。しかし資金繰りが厳しくなると、その50万円を従業員の給与や仕入れの支払いに充ててしまう。
やがて納付時期が来ると「支払うべき消費税がない」という状況に陥ります。これが典型的な消費税滞納のパターンです。
倒産実務の視点から
倒産事件を扱う弁護士や税理士によれば、破産申請をした企業の多くで「消費税滞納」が目立つといいます。
法人税や所得税と違い、赤字企業でも必ず発生する税金 であること。しかも「預かっているだけ」という性質のため、流用が発覚すれば経営者の責任は極めて重くなります。
柴原多弁護士の言葉を借りれば、
「倒産した企業で、最初に滞納が表面化するのが消費税だ」
これは制度の宿命ともいえるのです。
「毎月納付」論の背景
こうした状況を受け、税理士団体などからは「すべての事業者に毎月納付を義務づけるべきだ」という提案が出ています。
- 預かり金を長期間手元に置かせない
- 流用リスクを減らす
- 納税意識を高める
一方で、事務負担の増大や小規模事業者への過大な負担が懸念されます。特に経理人員が限られる小規模企業では、毎月申告・納付は現実的でないとの声も根強いのです。
まとめ:制度の「歪み」とどう向き合うか
消費税は「消費者が払う税」であると同時に、「事業者が代わりに納める税」です。この二重構造がある以上、事業者が資金難に陥れば「預かり金」に手を付けてしまうリスクは制度的に避けられません。
- 赤字でも納める義務がある
- 納付までのタイムラグがある
- 「自分の売上」と錯覚しやすい
こうした背景が、消費税滞納を増やし、倒産リスクを高めています。
次回は、この「預かり金の流用」が企業経営にどんな影響を及ぼし、どのように倒産リスクを高めるのか──さらに「制度の歪み」としての倒産リスクに焦点を当てていきます。
📖参考
「消費税、年5000億円の滞納ドミノ 資金難で手を付けた『預かり金』」日本経済新聞(2025年9月29日)
記事はこちら
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
