■ 「給与で働く」から「株で報われる」時代へ
近年、給与明細を見ても“変わらない”と感じている一方で、
企業の株価はぐんぐん上がっている――。
「その差を埋める方法」がいま、静かに広がっています。
それが、会社から“株式”で報酬をもらう制度です。
給与やボーナスだけではなく、
「株」というかたちで働く人に報いる企業が増えているのです。
■ ① 従業員持株会 ― “自分の会社を毎月コツコツ買う”
最も身近な制度が「従業員持株会(もちかぶかい)」です。
🔹仕組み
給与天引きで、毎月一定額の自社株を購入する仕組みです。
たとえば月1万円を拠出すると、手数料ゼロで会社が株を買い付けてくれます。
🔹メリット
- 会社が奨励金(補助)を出すケースが多い(例:拠出額の5~10%上乗せ)
- 株価上昇や配当によって、資産形成効果が見込める
- 定期的に買うため、ドルコスト平均法でリスク分散できる
🔹デメリット
- 給与も株も同じ会社に依存する「リスク集中」
- 会社の不祥事・業績悪化で、同時にダメージを受ける可能性も
🔹ポイント
持株会はあくまで“資産形成の一部”として活用するのがおすすめです。
資産全体の2~3割を上限に、
NISAや投資信託など他の資産とも組み合わせてバランスをとりましょう。
■ ② 株式報酬制度 ― “働く人が株主になる”
最近急増しているのが、会社が報酬として株式を付与する制度です。
🔹どんな制度?
たとえば第一生命HDでは、課長級の社員に
最大600万円相当の株式報酬を支給しています。
他にも、トヨタ・ソニー・丸紅など多くの企業で導入が進んでいます。
🔹目的は?
- 経営と社員の目線を合わせるため
- アクティビスト(物言う株主)対策としての安定株主確保
- モチベーション・リテンション(離職防止)効果
🔹主なタイプ
| 制度名 | 内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 株式付与制度 | 成績などに応じて株式を“そのまま支給” | 管理職~一般社員 |
| 信託型株式報酬(RSU) | 一定期間勤務すると株式が交付される | 管理職・若手リーダー |
| パフォーマンス株式(PSU) | 目標達成度に応じて株式数が決まる | 管理職・経営層 |
最近は「管理職だけ」ではなく、
全社員対象に広げる企業も増えています。
「働く=株主になる」――そんな時代が来ています。
■ ③ ストックオプション ― “未来の株価を今のうちに”
ベンチャー企業などで多いのが、ストックオプションです。
🔹仕組み
あらかじめ決めた価格(権利行使価格)で、
将来会社の株を買う権利をもらう制度です。
たとえば――
- 1株1000円で買える権利をもらう
- 3年後に株価が3000円に上がっていた
→ 差額2000円が利益(1株あたり)
🔹特徴
- 株価上昇=報酬アップにつながる
- 上場や成長を目指す企業では特にモチベーション効果が大きい
- ただし株価が下がれば権利の価値はゼロに
大企業では、近年「信託型ストックオプション」や「譲渡制限付株式」など、
リスクを抑えた新型制度も登場しています。
■ ④ 税金の扱いも知っておこう
株式報酬や持株会で得た株を売るときには、
譲渡所得(20.315%課税)として扱われます。
ただし、ストックオプションの場合は
「権利行使時に給与課税」「売却時に譲渡課税」と2段階でかかることもあります。
→ 第4回では、この税金とリスク分散の考え方を詳しく解説します。
■ 働くことが“投資”になる社会へ
かつて「株式=お金持ちのもの」というイメージがありました。
でも今は、働く人ひとりひとりが、
“自分の会社の株主”になる流れが始まっています。
給料をもらいながら、会社の成長にも投資する。
それがこれからの「働く」の新しいかたち。
「株で報われる社会」は、決して遠い話ではありません。
■ 次回予告
次回・第4回は
「自社株のリスクと賢い付き合い方」。
「給与と株、両方が会社頼みになる」リスクをどう防ぐか?
分散投資・売却タイミング・税金対策を、実例でわかりやすく紹介します。
📚 出典:
2025年10月19日 日本経済新聞朝刊
「資本騒乱 さらば運用貧国(5)株式報酬、従業員を資本家に」
および東京証券取引所「株式報酬制度の動向」資料 等
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
