1. 「第3号被保険者」とは?
日本の年金制度は、「国民年金」を基礎として3つの区分に分かれています。
| 区分 | 主な対象者 | 保険料負担 | 例 |
|---|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 自営業者・学生・無職など | 自分で納付(月額1万6,000円前後) | フリーランス、専業農家など |
| 第2号被保険者 | 会社員・公務員 | 給与から天引き | 勤務先の厚生年金加入者 |
| 第3号被保険者 | 第2号に扶養される配偶者 | 保険料負担なし(夫の保険料に含まれる) | 専業主婦、パート勤務の妻など |
このうち「第3号被保険者」は、自分では保険料を払わなくても国民年金に加入している扱いとなる特例的な制度です。
1985年の制度改正で導入され、当時は「専業主婦世帯の老後を守る」目的がありました。
2. なぜ見直しが議論されているのか
しかし、現在では社会構造が大きく変わりました。
- 共働き世帯が全体の7割を超え、「専業主婦世帯は少数派」に
- パートや短時間勤務など、「働いているが第3号のまま」というケースが増加
- 働き方が多様化し、制度の線引きが曖昧に
結果として、
「第3号は保険料を払わないのに、同じ年金をもらえるのは不公平」
という声が高まりました。
とくに、正社員としてフルで働く第2号被保険者や、自営業で保険料を納めている第1号被保険者との間で「負担と給付のバランス」が問題視されています。
3. 政府・与党の検討内容
自民党と日本維新の会の連立合意書では、社会保障改革の一項目として次のように明記されました。
「会社員らに扶養される配偶者が保険料を払わずに国民年金を受け取れる『第3号被保険者制度』の見直しを検討する」
検討の方向性としては、
- 保険料を本人が一部負担する方式
- 第2号(厚生年金)への加入拡大
- 「第3号」区分そのものを廃止
などが考えられています。
政府は2025年度中に制度設計の骨子をまとめ、2026年度以降に順次実行する方針です。
4. 生活者への影響は?
仮に第3号制度が廃止・変更される場合、次のような影響が想定されます。
- 保険料負担の発生:現在、年金保険料を払っていない配偶者にも月1.6万円前後の負担が発生する可能性。
- 企業実務への影響:扶養判定や社会保険手続きが複雑化。
- 年金格差の是正:第1号・第2号との公平性が改善される一方、専業主婦世帯には負担増。
特に、パートや非正規雇用で「第3号のまま扶養内で働く」という層にとっては、制度変更が家計に直結します。
5. 背景にある「負担の公平」と「支え手不足」
少子高齢化が進む中で、現役世代の保険料負担は限界に近づいています。
政府は今回の連立合意で、
「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げを目指す」
と明記しました。
その実現のためには、支え手を増やすことが不可欠です。
第3号被保険者が一部でも保険料を負担する仕組みになれば、
年金制度の持続性を高める効果が期待されます。
6. 専門家の見方
一方で、FP(ファイナンシャル・プランナー)や税理士の間では、
「短時間労働者や専業主婦の生活実態を無視して負担を増やすのは逆効果」
との懸念も出ています。
年金は老後資金の“基礎の柱”です。
制度を変えるなら、所得の少ない層への負担軽減策や、
家計支援とのバランスをとることが欠かせません。
7. まとめ
第3号被保険者制度の見直しは、**「家族のあり方」と「社会保障の公平性」**の両面を問うテーマです。
専業主婦か共働きか、扶養か自立か――。
働き方が多様化する今こそ、「支え合う年金制度とは何か」を考える時期に来ています。
制度改正の方向が決まる2025年度は、まさに“転換点”になるでしょう。
出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「消費税『食品2年ゼロ』視野」/厚生労働省『年金制度の構造改革に関する検討資料(2025年版)』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
