2024年冬、あるスポーツジム運営会社が破産を申請しました。負債総額は20億円あまり。破産の直接の原因は新型コロナウイルス禍による客数の減少でしたが、背景にはもうひとつ大きな要因がありました。それが「消費税滞納による資金繰りの悪化」です。
この企業だけではありません。コロナ禍以降、多くの中小企業が同じように資金繰りに追い込まれ、消費税滞納をきっかけに倒産の連鎖が起きています。これがいわゆる「滞納ドミノ」です。
消費税滞納が急増
国税庁の統計によると、2024年度に新たに発生した税の滞納額は 9,925億円 にのぼりました。前年度比で24%の増加です。21年ぶりの高水準となり、その半分以上、実に 5,298億円が消費税 でした。
この数字は単なる統計にとどまりません。倒産や経営破綻の現場では、税滞納が企業の存続を左右する深刻な要因になっています。特に消費税の滞納は、法人税や所得税とは異なる性質を持っているため、事業者にとって一層の負担となります。
「赤字でも納める」消費税の重さ
倒産実務に詳しい柴原多弁護士はこう語ります。
「倒産した企業で目立つのは消費税の滞納だ。法人税と違って、消費税は損益が赤字でも納めなければならないことが大きい」
法人税は利益が出た場合に課される税金です。赤字企業は法人税を支払う必要がありません。
しかし消費税は違います。売上があれば必ず発生し、赤字でも納税義務を免れることはできません。
この「赤字でも納める」という性質が、資金繰りが苦しい企業にとって大きなプレッシャーとなります。売上が落ち込む中、消費税の納付資金を確保できず、結果的に「預かり金」に手を付けざるを得なくなるのです。
事例:スポーツジムの破産
冒頭で紹介したスポーツジム運営会社のケースを見てみましょう。
- コロナ禍で会員数が激減
- 売上が回復しない中で家賃や人件費の支払いが重くのしかかる
- 消費税を納付できず、税務当局から売掛金を差し押さえられる
- 取引先からの信頼も失い、先行きの見通しが立たなくなる
- 最終的に破産を申請
「本来は国に納めるべきお金」を運転資金に回してしまった結果、税務当局の強制執行に直面し、事業の継続が不可能になったのです。
滞納が招く倒産リスク
税や社会保険料の滞納がある企業は、金融機関からの融資を受けにくくなります。信用情報に「滞納」が記録されれば、銀行にとってはリスクが高い企業と見なされるからです。
東京商工リサーチのまとめによると、税や社会保険料の滞納が原因で倒産した件数は2024年度に 170件あまり。前年度から約4割増え、過去10年間で最も多くなりました。
つまり、一度消費税を滞納すると資金繰りの悪化に拍車がかかり、融資を受けられず、倒産への道をたどるケースが急増しているのです。
滞納は「悪意」ではなく「苦渋の選択」
消費税滞納というと、「納税を怠けている」「ズルをしている」といった印象を持つ人もいるかもしれません。しかし現場では、必ずしもそうではありません。
- 預かった消費税に手を付けるのは本来ご法度
- それでも「従業員の給料を払うため」「家賃を支払うため」に消費税を流用する
- その先に「延命」ではなく「破産」が待っている
まさに「背に腹は代えられない」苦渋の選択なのです。
このように、消費税滞納は一部の不心得者ではなく、構造的に追い込まれた事業者に起こり得る問題だと理解する必要があります。
コロナ禍での加速要因
コロナ禍では、以下の要因が重なり「滞納ドミノ」を加速させました。
- 売上の激減(特に飲食・観光・スポーツ施設)
- 固定費(家賃・人件費)が重く、支出削減に限界があった
- 給付金や支援制度は一時的で、長期戦には耐えられなかった
- 消費税納付は待ってくれず、延滞税も加算される
まさに「出口の見えないトンネル」の中で、企業は消費税を納められない状況に追い込まれたのです。
まとめ:滞納ドミノは他人事ではない
今回取り上げたスポーツジムの事例は、氷山の一角にすぎません。全国で同じように消費税滞納が引き金となり、企業が倒産に追い込まれています。
消費税は「消費者が負担する税」であると同時に、「事業者が納付を代行する税」です。つまり、事業者が資金繰りに困窮すると、国全体の税収や制度の信頼に影響を及ぼす構造的なリスクを抱えているのです。
次回は、こうした滞納の背景にある「消費税は預かり金」という性質を深掘りします。なぜ企業が「預かったお金」に手を付けてしまうのか──そのメカニズムを明らかにしていきます。
📖参考
「消費税、年5000億円の滞納ドミノ 資金難で手を付けた『預かり金』」日本経済新聞(2025年9月29日)
記事はこちら
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
