前回は、租税特別措置(租特)の仕組みと実態について整理しました。今回は、その見直しを強く訴えている日本維新の会の主張に焦点を当てます。維新は「教育無償化」を看板政策の一つとし、その財源を租特の縮小・廃止で確保すべきだとしています。
教育を受ける機会を平等に保障することは、社会にとって不可欠な基盤です。しかし「無償化には多額の財源が必要」という現実が立ちはだかります。ではなぜ維新は租特を財源と位置づけるのでしょうか。
維新の基本姿勢──教育無償化を「党是」に
日本維新の会は結党以来、「教育の機会均等」を最重要テーマに掲げてきました。特に橋下徹元大阪市長時代から「教育無償化」は維新のアイデンティティといえる政策です。
今回の議論では、高校授業料の無償化をさらに拡充する方針が3党(自民・公明・維新)で合意されました。対象からは「日本に定住する見込みのない留学生」や「インターナショナルスクールに通う外国籍生徒」は外れる方向ですが、それでも必要額は最大6000億円と試算されています。
この巨額の財源を、どう確保するか──ここで維新は「租税特別措置を見直せ」と強く主張しているのです。
「隠れ補助金」としての租特批判
維新の藤田文武共同代表は、9月の会見で次のように述べました。
「租特は特定の企業や団体が集中的に恩恵を受ける隠れ補助金に近い性質を持つ」
つまり、租特は「企業支援の名を借りた税優遇」であり、実際には政治と業界の関係に基づいて恩恵が偏っているのではないか、という疑念です。
租特の減税額は2023年度で2兆8990億円。しかもどの企業がいくら得しているかは公表されていません。これが「不透明で、既得権益化している」との批判を招いているのです。
維新はこの現状を「ゼロベースで見直すべき」と政策集に明記。教育財源として使うことで、国民生活に直結する分野へ税金を再配分すべきだと訴えています。
教育無償化の意義
教育無償化にはどんな効果が期待できるのでしょうか。大きく分けて三つ挙げられます。
- 家計負担の軽減
高校授業料は、家庭によっては大きな負担になります。特に私立高校に通う場合、年30〜40万円以上かかることも珍しくありません。無償化が実現すれば家計の安心につながります。 - 教育機会の平等化
経済的理由で進学をあきらめる子どもを減らすことができます。学びたい意思のある生徒が家庭の所得によって制約を受けない仕組みは、公平な社会の基礎です。 - 将来の人的資本投資
教育は「消費」ではなく「投資」です。教育水準の向上は、将来の労働生産性や経済成長につながります。短期的には財政負担が増えても、長期的には社会にリターンをもたらします。
こうした観点からも、維新が「教育無償化」を優先順位の高い政策に据えるのは自然な流れといえるでしょう。
他党との違い
興味深いのは、他の野党とのスタンスの違いです。
- 立憲民主党
野田佳彦代表は「租特は隠れ補助金」と指摘し、維新に近い立場。透明性確保と見直しを重視しています。 - 国民民主党
むしろ租特の「拡充」を主張。企業の投資額以上の償却を認める「ハイパー償却税制」や、10%以上の賃上げを促す税制を提案。教育よりも経済成長を前面に押し出しています。 - 自民党・公明党
「新しい資本主義」の柱として租特を拡充してきた経緯があり、短期間での縮小には強い慎重姿勢。
このように、同じ「教育無償化」に賛成する立場でも、財源論になると各党で大きな違いが浮き彫りになります。
財源論のリアリティ
教育無償化の費用は最大6000億円。国の一般会計(年間約110兆円)の中では1%未満にすぎません。しかし、財政赤字が慢性化する日本にとって「新しい恒久的な財源」を確保するのは至難の業です。
- 消費税増税は国民の反発が大きい
- 国債発行は財政悪化につながる
- 歳出削減は容易ではない
そのなかで「すでにある租特を見直して回す」案は、政治的に現実味を持つ選択肢の一つといえます。
維新の狙い──教育から政治連携へ
維新が租特見直しを打ち出すのは、教育財源の確保だけが狙いではありません。
与党は参院・衆院ともに単独過半数を持っておらず、法案や予算の成立には野党の協力が不可欠です。維新は2025年度予算で教育関連に賛成し、与党と協調した実績があります。今回の議論も「教育無償化」を突破口に、自民党との政策連携を強める布石と見ることができます。
つまり租特の見直し論は、「教育政策」と「政局戦略」の両面を兼ねているのです。
まとめ
- 維新は教育無償化を党是とし、その財源を租特見直しで確保すべきと主張
- 租特は2兆8990億円規模の減税だが、企業名が非公開で「隠れ補助金」と批判されている
- 教育無償化は家計負担の軽減・機会の平等・将来の投資という三つの意義がある
- 他党は「拡充すべき」「透明性を高めるべき」などスタンスが分かれる
- 維新にとっては教育財源確保と同時に、自民党との政治連携を深めるチャンスでもある
📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
