第2回 改正住宅セーフティネット法のポイント

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2025年10月1日、改正住宅セーフティネット法が施行されます。高齢者や低所得者、外国人、シングルマザーなど「住宅弱者」と呼ばれる人々を支援するための仕組みを強化することが目的です。

今回の改正は、単なる制度の見直しではありません。高齢化が急速に進む社会において、誰もが安心して住まえる環境をどう整えるか――その挑戦の一歩といえるのです。

この記事では、改正の具体的なポイントを整理し、その意義や課題について考えていきます。


住宅セーフティネット法とは?

まずは法律の基本から振り返りましょう。

住宅セーフティネット法は2017年に施行されました。その柱となる仕組みは、

  • 「セーフティネット住宅」の登録制度
    → 大家が「入居を拒まない」とする物件を登録し、希望者に紹介する。
  • 居住支援協議会の設置
    → 自治体やNPOが連携して、入居支援や生活相談を行う。

つまり、「貸す側」と「借りたい側」をつなげる役割を果たすのがこの法律でした。しかし実際には登録物件数が伸び悩み、支援体制も地域差が大きいなどの課題が残っていました。


改正の背景

なぜ今回の改正が必要だったのでしょうか。

  1. 独居高齢者の増加
    900万世帯を超える独居高齢者は、今後さらに増える見込み。孤独死や残置物問題は社会的なリスクになっています。
  2. 空き家問題とのミスマッチ
    全国に400万戸を超える空き家があるのに、住宅弱者が入居できないという矛盾。
  3. 自治体支援の不足
    市区町村レベルでの居住支援協議会の設置が進まず、地域差が拡大。

こうした現実を受けて、法律の「実効性」を高めるための改正が行われたのです。


改正のポイント① 残置物処分の仕組み整備

最も注目されるのが、残置物問題への対応です。

入居者が亡くなったり、意識を失って入院したりした場合、部屋に残された家財道具や衣類は「残置物」となります。家族がいない、あるいは対応できないケースでは、処分が滞り部屋が荒れ放題になることもあります。

これまで大家は、法的手続きを経なければ勝手に処分できず、時間も費用もかかっていました。改正法では、残置物を円滑に処理できる仕組みを導入。契約時にあらかじめ取り決めを行うことで、スムーズに片付けが進むようになります。

これは、大家にとって大きな安心材料となり、高齢者への「貸し渋り」を和らげる効果が期待されます。


改正のポイント② ICTを活用した見守り支援

次に重要なのが、ICT(情報通信技術)の活用です。

  • スマートセンサーで室内の動きを確認
  • 定期的なオンライン面談で安否確認
  • アプリを通じた緊急連絡体制

こうした仕組みを導入する住宅供給を推進し、孤独死やトラブルを未然に防ぐ狙いがあります。

大家から見ても「見守りシステムがあるなら安心」と感じやすく、入居拒否の緩和につながります。


改正のポイント③ 居住支援協議会を努力義務化

住宅確保には自治体の役割が欠かせません。

改正前から「居住支援協議会」という仕組みは存在しましたが、設置は自治体の任意でした。そのため設置率は市区町村レベルで低迷していました。

今回の改正では、設置が「努力義務」へ格上げされました。
これにより、全国的に支援体制が広がることが期待されます。

協議会には、自治体だけでなくNPOや社会福祉法人、不動産事業者などが参画し、地域全体で住宅弱者を支える体制が整えられます。


改正のポイント④ その他の支援強化

さらに以下のような施策も盛り込まれています。

  • 居住支援法人の役割拡充:見守りや相談活動を担う法人を増やし、支援網を厚くする。
  • マッチング機能の改善:借り手と空き家をつなぐ仕組みを強化。
  • 福祉・医療との連携:住宅だけでなく生活全体を支援する体制を意識。

改正による期待効果

この改正で期待される効果は大きく分けて3つです。

  1. 大家の不安を軽減
    残置物処分や見守りシステムにより、リスクが減少。
  2. 入居希望者の選択肢拡大
    セーフティネット住宅の登録が進めば、住宅弱者でも安心して物件を探せる。
  3. 地域での支援体制強化
    協議会設置が進み、地域格差が縮小。

それでも残る課題

ただし、課題がすべて解決するわけではありません。

  • 登録住宅数はまだ限定的で、需要に追いついていない。
  • ICT導入には費用がかかり、大家や自治体の負担が大きい。
  • 居住支援法人の人材・資金不足。

つまり、制度が整ったからといってすぐに現場が変わるわけではなく、実際に運用を定着させる工夫が必要なのです。


税理士・FPの視点

この改正は「住まいと家計・相続を結びつけて考えるきっかけ」になります。

  • 契約時の残置物条項は、相続や遺品整理のトラブル防止につながる。
  • 見守りシステム導入費用は、老後の生活コストに含めて計画する必要がある。
  • 協議会や支援法人と連携し、顧客に「地域資源の活用方法」をアドバイスできる。

税務や資産管理の枠を超えた「生活支援のアドバイザー」としての役割がますます求められるでしょう。


まとめ

改正住宅セーフティネット法のポイントをまとめると、

  1. 残置物処分を円滑にする仕組み
  2. ICTを活用した見守り支援
  3. 居住支援協議会の努力義務化
  4. 支援法人やマッチングの強化

これらはいずれも、大家の不安を減らし、住宅弱者に安心を届けるための一歩です。

ただし、実効性を高めるためには、現場での定着と支援人材の拡充が欠かせません。

次回は「第3回 空き家400万戸とマッチングの壁」を取り上げ、空き家問題と住宅弱者支援の矛盾について深掘りしていきます。


📌参考:日本経済新聞「改正住宅セーフティネット法施行」(2025年9月14日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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