――株高と金高が同時進行する時代の背景
通常、株式市場と金市場はシーソーのような関係にあります。
株式が買われるときはリスク選好が強まっているため、安全資産の金は売られやすい。逆に不安が高まると株が売られ、金が買われるという構図です。
ところが2025年の市場では、株価と金価格が同時に最高値を更新しています。これは過去にあまり見られない現象であり、投資家心理に大きな変化が生じていることを示しています。
投資家が金を選ぶ理由① 中長期の不安に備える
目先の株高は、米国の利下げ期待やAI関連銘柄の成長期待などで支えられています。しかし同時に、投資家は中長期的なリスクを強く意識しています。
- インフレ再燃のリスク:政治主導の利下げ圧力で金融政策の独立性が損なわれる懸念。
- 財政赤字の拡大:米国をはじめ主要国で債務が膨張し続け、持続性への不安がくすぶっている。
- ドル信認の低下:国際的な通貨秩序の揺らぎ。
投資家は「今は株を買ってリターンを狙う一方で、将来に備えて金も保有する」という二重戦略をとっているのです。
投資家が金を選ぶ理由② 中央銀行の行動が後押し
投資家心理を大きく動かすのが、中央銀行の金買いです。
- 中国人民銀行は2022年末以降、18カ月連続で金を買い増し。
- 一時停止したものの、2024年11月から再び積極的に購入。
- ロシアや中東諸国なども、ドル資産のリスクを意識して金保有を拡大。
「各国の中央銀行が買っている」という事実は、民間投資家にとっても安心材料となります。「大口投資家が動いているなら自分も追随したい」という行動心理が働くのです。
投資家が金を選ぶ理由③ ETFによる投資の民主化
かつて金への投資は、専門性の高い市場参加者に限られていました。しかし今や、金に連動するETF(上場投資信託)が世界中の証券取引所で売買可能です。
- 数千円単位で購入可能
- NISA口座でも取引できる
- 現物を保管する手間がない
この利便性の高さから、個人投資家も金市場に参入しやすくなりました。その結果、金価格の上昇局面では個人マネーが一気に流入し、価格を押し上げる構造ができています。
投資家が金を選ぶ理由④ 「リスクの鏡」としての役割
金は、投資家にとって「リスクの鏡」としての機能を果たしています。
- 株や債券が強気相場のときでも、金が同時に上がる場合は「水面下の不安」を映している。
- 投資家が口にしない懸念――地政学的リスク、通貨体制の揺らぎ、財政不安――が金価格に表れる。
- 金の動向を見ることで、株価だけでは分からない「市場の体温」を測ることができる。
まさに金は、世界経済全体のセンサーのような存在になっています。
金投資のメリットとリスク
メリット
- インフレへの強さ:モノの価値が上がる局面でも価値を維持しやすい。
- 通貨の減価に強い:ドル安や円安の局面で相対的に価値が上がる。
- 分散効果:株や債券とは異なる動きをするため、全体のリスクを抑えられる。
リスク
- 短期的なボラティリティ:ETFや投資マネーの急激な流入・流出で価格変動が大きくなる。
- 金利上昇局面での逆風:無利息資産である金は、利子のつく債券に比べ不利になる。
- 税制上の扱い:利益が出た場合には譲渡所得課税(分離課税20.315%)がかかる。
税理士・FPの視点:金投資をどう位置づけるか?
投資家が金を買う理由は理解できても、個人レベルでどう活用すべきかは悩ましいところです。ここで重要なのは「資産全体の中での位置づけ」です。
- 長期積立投資(NISA・iDeCo)とのバランス
株式中心のポートフォリオに、数%程度の金を加えることでリスク分散効果が期待できます。 - 相続・贈与を意識するなら
金地金を現物で持つと、評価・分割のトラブルになりやすいです。金融商品としての保有を選ぶと、承継時に扱いやすくなります。 - 短期売買よりも長期保有を意識
「金価格が上がっているから今すぐ買う」というよりも、時間をかけてコツコツ組み込むのが望ましいです。
まとめ:株高と金高の同時進行が意味するもの
今回の金高騰は、株式市場の好調さと矛盾するように見えます。しかし実際には「短期的な強気」と「中長期的な不安」が同居していることを表しています。
- 株はリターンを狙うために買われる
- 金は不安に備えるために買われる
この二重の動きが同時に起きているのが、今の市場の特徴です。投資家にとって金は、ただの投資対象ではなく、「世界の不安を映す鏡」としての存在感を強めています。
📌 参考資料
- 日本経済新聞 2025年9月14日付「金の高騰は世界の複合リスクへの警鐘だ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
