第2回 企業の給与改定と家計への影響 標準報酬月額の引き上げがもたらす「静かな変化」

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前回は、標準報酬月額の上限引き上げによって高所得の会社員の保険料負担が増える一方、将来の年金額が増えることを解説しました。しかし、この改正の影響は会社員本人だけではありません。企業側は、人件費負担の増加を避けるために「給与体系の見直し」を行う可能性が高まっています。

その結果として、従業員の家計やライフプランにも「静かな変化」が起こり得ます。本稿では企業が行う給与改定の具体的な方向性と、それが家計にどのような影響を与えるのかを整理します。

1. 企業側に生じる負担増

標準報酬月額の上限引き上げにより、企業にも厚生年金保険料の負担が発生します。厚生年金保険料は企業と従業員が折半して負担するため、上限引き上げによって企業側の負担も増える構造になっています。

例えば、標準報酬月額75万円の等級では、1人当たり月約9,100円の保険料増になります。企業と従業員で折半すると、企業側は月約4,500円の追加負担です。高所得者を多く雇う企業ほど人件費は増加し、経営判断に影響を及ぼします。

2. 月給を抑え「賞与へシフト」する動き

今回の改正で影響を大きく受けるのは 月給部分のみ です。賞与については、1回150万円までの標準賞与額上限に変更がありません。

そのため企業の実務では、

  • 月給を抑える
  • その分を賞与として支給する

という「賞与シフト」が増えると考えられます。

実際、筆者(ChatGPT)が参考にしたFPの現場でも、「高所得者の報酬構造を調整したい」という企業相談が増えており、すでに年間の支給バランスを見直す動きが広がっています。

3. 賞与シフトは家計にどう影響するか

給与体系が変わると家計にもいくつかの影響が出ます。

(1) 毎月の手取りが減る可能性

月給が抑えられると、生活費として使える毎月の手取り額が減少する可能性があります。
とくに住宅ローンなど、毎月固定の支出がある世帯は注意が必要です。

(2) 年収は同じでも「使えるお金のタイミング」が変化

年収総額に変化がなくても、支給のタイミングが変わることで以下のような影響があります。

  • 毎月のキャッシュフローがタイトになる
  • 賞与に生活費を頼る割合が増える
  • 年間の資金計画を立てにくくなる

家計管理の観点からは、定期的なキャッシュフローの安定性が損なわれる点は見逃せません。

(3) 所得控除・社会保険料控除のタイミングが変わる可能性

賞与が増えると、社会保険料や税金も賞与支給時に多く控除されるため、手取り額の変動が大きくなります。

とくに、子育て世帯は「児童手当の所得制限」「保育料の算定」「高校無償化」などに影響する可能性もあります。

4. 企業が行う可能性があるその他の給与改定

企業の対応は「賞与シフト」だけではありません。以下のようなケースも考えられます。

(1) 勤務手当の再編

通勤手当・役職手当・住宅手当などの支給基準を見直し、報酬月額の上昇を抑える動きが出る可能性があります。

(2) 高額給与層向けの報酬制度の再設計

役員手前の管理職層について、

  • 成果報酬型制度の導入
  • 月給・賞与の比率変更

など、大きな制度改定を行う企業も増えるはずです。

(3) 外部委託・業務の分業化の加速

人件費増への対応として、企業が外部リソースへのシフトを強める可能性もあります。士業・フリーランス・コンサルなどへのアウトソーシング需要が増えることも想定されます。

5. 従業員ができる対策

給与改定の影響を受けるのは企業だけではなく、従業員自身です。次のような対策を検討しておくと安心です。

(1) 家計のキャッシュフローを再点検する

月給減の可能性を考慮し、固定費の見直しや貯蓄計画の調整を行います。

(2) 賞与の使い方にルールを設ける

生活費に使いすぎると突然の支出に対応できなくなります。
賞与の一定割合は貯蓄・投資・教育費に回すなど、長期計画が必要です。

(3) 企業の給与制度改定を注視する

企業の説明会・就業規則・通知文書に注意を払い、何がどう変わるのかを把握しておくことが重要です。

結論

標準報酬月額の上限引き上げは、単なる「社会保険料の改正」にとどまりません。企業の給与体系に影響を与え、従業員の家計にも間接的な変化をもたらす可能性があります。

とくに賞与シフトが進むと、年間収入が変わらなくても毎月の手取りが変動し、家計管理の見直しが必要になります。今回の改正は高所得層を中心とした対象ではありますが、企業全体の制度変更が波及すれば、より多くの従業員に影響が及びます。

今後の給与改定の動きを注視しながら、家計のキャッシュフローを定期的に見直し、ライフプランがぶれないように備えておくことが大切です。

出典

  • 厚生労働省「改正事項について解説した補足資料(概要版)」
  • 日本FP協会 会員向けコラム(2025年)
  • 筆者作成(制度改正に基づく分析)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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