ドラッグストアは、医薬品と日用品を扱う小売業から、調剤や介護支援まで担う多機能拠点へと変化しています。ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスの統合による業界再編の流れは、その象徴といえます。高齢化が進む日本において、ドラッグストアが地域包括ケアの一翼を担う存在として期待される場面は、今後さらに増えていきます。
本稿では、ドラッグストアが高齢者支援の中心となる可能性や、その実現に向けた課題を整理します。
高齢化と生活課題に寄り添う店舗機能の拡大
ドラッグストアは医薬品だけでなく、食品や生活必需品を扱うことで、日常生活に深く浸透しています。高齢者が店舗に足を運びやすい点も強みであり、次のような機能拡張が進んでいます。
- 調剤薬局の併設による医療アクセス向上
- 介護用品や衛生用品の充実
- 店舗スタッフによる健康相談
- フレイル予防やセルフメディケーション推進
- 地域住民との接点を活かした見守り機能
医薬品の安定供給と適切な情報提供は不可欠であり、薬剤師の専門性がより重要になります。
セルフメディケーションを支える重要な役割
軽い不調を市販薬で対処するセルフメディケーションは、健康意識を高め、医療費の抑制にもつながる行動です。ドラッグストアは市販薬販売の中心的な担い手であり、次のような点で重要な役割を果たしています。
- 薬剤師や登録販売者による適切な助言
- 医薬品の在庫管理と安定供給
- 予防に役立つサプリメントや健康食品の販売
- 生活習慣改善のための情報提供
市場の拡大とともに、誤用のリスクも増えるため、専門家の関与はますます欠かせません。
地域包括ケアの拠点として期待される新しいサービス
国が推進する地域包括ケアシステムは、住み慣れた地域で生活を続けるための支援を重視します。ドラッグストアが担える役割は広く、次のような取り組みが期待されています。
- 自宅への薬剤師訪問による服薬支援
- 介護相談窓口としての役割
- 介護サービス事業者との連携
- 生活必需品の安定供給
- フードロス削減や地域環境改善への貢献
医療・介護・生活の接点を深めることで、高齢者の暮らしを支える中核的な存在になりつつあります。
買い物弱者支援と移動販売の広がり
人口減少が進み、小売店の閉鎖が増える地域では、買い物弱者の課題が深刻化しています。ドラッグストアは医薬品で利益を確保しながら、割安な食品を扱うことで、郊外や過疎地域でも事業継続が比較的しやすい特徴があります。
さらに、一部企業は移動販売を開始し、次のようなメリットを生み出しています。
- 山間部などでの買い物支援
- 高齢者との接触による見守り効果
- 地域コミュニティとの連携強化
- 過疎地域における生活インフラ機能の補完
これらは、地域包括ケアを支える重要なサービスとして注目されています。
課題①:人材の確保と質の向上
ドラッグストアの機能拡大には、専門性の高い人材の確保が不可欠です。薬剤師や介護の知識を持つスタッフなど、多様な人材が求められます。
- 地方店舗を中心に薬剤師不足
- 専門性向上の教育体制の整備
- 給与や働きやすさの改善
- 多職種連携に対応できる人材育成
地域包括ケアに関わるためのスキルセットは広く、人材投資の強化が必要です。
課題②:オンラインと店舗をつなぐ新しい体制
オンライン服薬指導や電子処方箋など、デジタル化は高齢者支援の大きな手段となります。外出が難しい高齢者にとって、オンラインと店舗を組み合わせたサービスは重要です。
- 処方薬のオンライン受け渡し
- 認知症への配慮を含む本人確認プロセス
- デジタル苦手層への支援
- 安全性と効率性を両立させる仕組みの構築
オンライン対応を進めることで、地域医療のアクセス格差を縮小する効果も期待されます。
結論
ドラッグストアは、医薬品の販売にとどまらず、高齢者の生活を支える多機能拠点として重要性を増しています。調剤、介護相談、移動販売、セルフメディケーション支援、オンライン化など、多様なサービスを組み合わせることで、地域包括ケアに大きく貢献できます。
人材育成とデジタル化という課題を乗り越えることができれば、ドラッグストアは地域における新しい生活インフラとしての役割をさらに強化していくはずです。
参考
ドラッグ店は高齢化対応で地域の核に(日本経済新聞 2025年12月7日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
