第1回 租税特別措置とは何か?──企業減税の仕組みと実態

政策
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「租税特別措置(そぜいとくべつそち)」と聞いて、すぐに中身を説明できる人は多くありません。ニュースでは「租特」と略されることもありますが、日常生活ではなじみの薄い言葉です。

しかし、この制度は毎年3兆円近い減税効果を持ち、日本経済や企業経営に大きな影響を与えています。さらに現在、この仕組みを教育無償化の財源として見直すかどうかが大きな政治テーマになっています。

本稿では、まず租税特別措置の基本的な仕組みや実態を整理し、なぜ今、見直しが議論されているのかを掘り下げていきます。


租税特別措置とは?

租税特別措置とは、本来の税制のルールから外れて、特定の目的を達成するために設けられた「例外的な減税制度」です。

例えば法人税は、企業が得た利益に対して一律のルールで課税されます。ところが、国が「研究開発をもっと促したい」「企業に賃上げをしてほしい」と考えると、そうした行動を取った企業だけに税の優遇を与えます。これが租特です。

つまり租特は、「特定の行動をとると税金が安くなる」というインセンティブを企業に与える仕組みです。補助金のように直接お金を渡すのではなく、税の軽減を通じて政策目的を達成しようとするものです。


主な租特の例

現在、租税特別措置は数十種類存在します。そのなかでも特に大きな規模を占めているのが次の2つです。

  • 研究開発税制
    企業が投じた研究開発費の一定割合を法人税から控除できる仕組みです。日本の製造業やIT産業は国際競争が厳しく、技術革新を支えるために不可欠とされています。2023年度には約9479億円もの減税につながりました。
  • 賃上げ促進税制
    企業が従業員の給与を一定割合以上引き上げた場合、法人税の負担が軽減される制度です。賃上げを社会全体で後押しする狙いで導入され、2023年度の減税額は7278億円にのぼります。

財務省によれば、2023年度の租特全体の減税額は約2兆8990億円。そのうち6割以上がこの2つで占められています。日本経済の「研究開発」と「賃上げ」を税制面で支えているといえるでしょう。


メリットとデメリット

租税特別措置には、明確なメリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 政策目的を効率的に実現できる
  • 補助金のように予算枠を確保しなくても実行できる
  • 企業にとっては投資や賃上げの後押しとなる

デメリット

  • 減税の恩恵が一部の企業に集中しやすい
  • 効果の検証が難しい(実際に賃上げや研究投資をどの程度促したか不透明)
  • 適用企業名が公表されていないため透明性に欠ける
  • 一度導入されると「既得権益化」して廃止が難しくなる

この「不透明さ」と「既得権益化」が、近年の政治論争の大きな火種となっています。


なぜ今、議論が高まっているのか

現在、租税特別措置の見直しが注目されている理由は大きく3つあります。

  1. 教育無償化の財源問題
    高校授業料の無償化をさらに進めるには数千億円の新しい財源が必要です。その原資として「租特を削るべきだ」という声が野党から出ています。
  2. 財政の厳しさ
    日本の財政赤字は深刻で、新たな支出のために増税をすれば国民負担が増えます。租特の見直しなら「増税」ではなく「既存の減税を削る」ため政治的に説明しやすい面があります。
  3. 経済構造の変化
    租特の多くは高度成長期やバブル期に導入されました。ところが現在は企業活動や雇用環境が大きく変わり、当時の目的が必ずしも今に合っていない制度もあります。

「隠れ補助金」との批判

批判のなかでよく聞かれるのが「租特は隠れ補助金」という表現です。

通常の補助金は国会の審議を経て予算として執行されます。しかし租特は税制に組み込まれているため、毎年の予算に計上されず、世論の監視が及びにくいのです。

そのため「一部の大企業や団体に恩恵が集中しているのではないか」「政治的なつながりのある業界が優遇されているのではないか」という疑念がくすぶり続けています。

実際、どの企業がどれだけの減税を受けているのかは公表されていません。ここに「透明性の欠如」という大きな問題が潜んでいます。


まとめ

租税特別措置は、表からは見えにくいけれど、日本経済と財政に大きな影響を与えている制度です。

  • 日本の研究開発や賃上げを支える仕組みである一方
  • 一部企業に恩恵が集中し、既得権益化しているとの批判も根強い

こうした背景から、教育無償化の財源として「租特を削るべきだ」という声が高まっています。

次回(第2回)では、具体的に日本維新の会がどのように教育無償化と租特見直しを結びつけているのか、その狙いと影響について掘り下げていきます。


📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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