銀行預金の利子にかかる地方税「利子割」が東京都に過度に集中していることを受け、政府・与党は税収偏在の是正に取り組み始めました。ネット銀行を中心に「本店所在地に税収が集まる仕組み」が現実にそぐわなくなりつつあり、制度の見直しが避けられない状況になっています。
利子割は住民税の一部として扱われる税金で、住民の所得に応じて各自治体が財源を確保するための重要な仕組みの一角です。本来は居住地で課税されるべき税収が、金融機関の所在地によって偏ってしまうことは、地方財政の公平性を揺るがす問題です。
本稿では「利子割とは何か」「なぜ東京に税収が集中するのか」「ネット銀行拡大と金利上昇が何をもたらしたのか」「今なぜ見直しが必要なのか」という点について、制度の基本から丁寧に整理していきます。
1 利子割とはどのような税なのか
利子割は「預金利子・公社債等の利子所得」に対して課される地方税で、個人住民税の一部に位置付けられています。ポイントは次のとおりです。
- 対象となるのは預金や債券の利子
- 税率は地方税として5%
- 本来は「利子を得た人の居住地」に税収が帰属
- 実務上は金融機関が源泉徴収し、その所在地に納付
この最後のポイントが、東京集中問題の核心です。
本来、住民税は居住地に帰属するのが原則です。ところが利子割は、実務的な簡便性を理由に「金融機関がまとめて本店所在地に納付する」という仕組みを採用してきました。
その結果、オンライン取引が増える現代では「居住地の実態を反映しない税源配分」が起きています。
2 ネット銀行台頭で仕組みのひずみが拡大
ネット銀行が急速に普及したことで、利子割の偏在は構造的な問題に発展しています。
ネット銀行の多くは東京都に本店を置いています。全国の利用者が口座を持ち、利子を受け取ったとしても、税金は利用者の住む自治体ではなく「ネット銀行の本店所在地」である東京都に納められます。
その結果として、
- 東京都の利子割税収シェアは 40%以上(2022〜2024年度)
- 他の住民税項目の東京シェアは 約20%前後
という大きな差が生じています。
本来、東京に住んでいない人が受け取った利子であるにもかかわらず、東京に税収が集中する構造が定着してしまったのです。
3 金利上昇が偏在問題を大きくする
近年の金利上昇により、預金利息は従来よりも増えています。数十年ぶりの“利子のある時代”が戻りつつある中、利子割の税収も増える方向にあります。
利子割の全国税収は現在およそ 400億円 と大きくありませんが、今後の金利引き上げ状況によっては税収の増加が見込まれます。偏在が拡大すれば、地方財政にとって無視できないテーマになります。
特に人口減少が進む自治体では、わずかな税収の上下でも予算編成に影響が出るため、偏在是正の意義はさらに高まっています。
4 なぜこの問題を放置できないのか
利子割の偏在を見直すべき理由は、次の3点に整理できます。
(1)地方財政の公平性が損なわれる
本来、住民税は「住んでいる自治体が住民の所得に応じて負担をいただく」という仕組みです。利子割だけが例外的に「金融機関の所在地課税」になっていることは制度上の不合理です。
(2)地方交付税では完全に補えない
地方交付税は財源調整の役割を果たしますが、利子割は交付税算定に必ずしもダイレクトに反映しません。自治体によっては不公平が残る可能性があります。
(3)ネット銀行の拡大で偏在是正の必要性が「恒常化」
ネット銀行は今後さらに普及し、金融行動は全国均質化していきます。従来の「本店所在地=実店舗所在地」の発想では、地方間の税源格差が修正できません。
このまま放置すれば、都市部の本店所在地に税収が集中し、地方自治体は人口減少に加えて税源の減少まで重なるという二重苦に直面します。
5 制度改正の方向性(次回への導入)
現時点で政府・与党が検討している方向性は次のようなものです。
- 所得データから「あるべき利子割税収(適正額)」を算定
- 実際の税収との差を自治体間で調整
- 東京都の“取り過ぎ分”を他自治体へ回す仕組み
これは単なる再分配ではなく、「住民税の本来あるべき姿」に近づける調整措置です。
次回は、この「新しい調整措置」の制度設計と課題をより詳しく解説します。
結論
利子割は住民税の中では規模の小さな税収ですが、ネット銀行の普及と金利上昇が重なる中で、地方税体系の見直しが求められる重要テーマとなりました。東京に税収が集中している現状は、地方財政の公平性を揺るがす問題であり、「居住地課税の原則」に立ち返った制度設計が必要です。
今後の税制改正でどのような調整措置が導入されるかは、地方財源の将来に大きな影響を与えます。次回の記事では、検討が進む制度案の中身に踏み込み、地方税改革の本質を解説していきます。
参考
・日本経済新聞「預金利子にかかる地方税、東京集中是正へ調整」(2025年12月3日 朝刊)
・総務省「地方税制度の概要」
・地方財政白書(最新版)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
