「おお、すごい上がってる!」
大手商社・丸紅の社員がエレベーターの株価表示を見上げて驚いた――。
2025年夏、日本経済新聞に掲載された一コマです。
丸紅では、社員の96%が従業員持株会に加入しています。
給与天引きで少しずつ自社株を積み立てる仕組み。
会社の業績が上がれば、自分の資産も増える。
いまや“働く場所”が“自分の投資先”になっているのです。
■ 「株でもらう」会社が増えている
丸紅だけではありません。
生命保険大手の第一生命ホールディングスも、
2024年に全社員へ株式報酬制度を導入しました。
課長級なら、最大600万円相当の株式報酬を受け取れる仕組み。
経営トップはこう語ります。
「企業価値の向上を、従業員の待遇改善に直接つなげたい」
この動きは広がりつつあります。
東京証券取引所の調べでは、
株式報酬を導入した企業は10年前の4倍、1200社超。
上場企業の3社に1社が、すでに“給与+株式”の報酬体系を取り入れています。
■ なぜいま、「株式報酬」が広がっているのか?
背景には3つの理由があります。
1️⃣ モチベーションの向上
会社が成長すれば、自分の資産も増える。
「仕事=投資」という意識が芽生えます。
2️⃣ 経営への参加意識
株主として会社を見ることで、
経営の数字にも関心が生まれます。
3️⃣ 安定株主の確保
近年はアクティビスト(物言う株主)が増加。
従業員株主が増えることで、経営の安定にもつながります。
■ 「r>g」―― 資本の力が給与を上回る時代に
ここで少し経済の話を。
フランスの経済学者・トマ・ピケティは『21世紀の資本』でこう述べました。
「資本(株式・不動産など)の収益率は、
経済成長や賃金の伸びより常に高い」
これが有名な「r>g(資本収益率>経済成長率)」の法則です。
つまり、働いて得る給与より、
投資や株などから得られるリターンの方が長期的に高い――。
働くことと投資することの両輪が求められる時代が来ています。
■ 会社員も「資本家」になる
これまで「投資」といえば、一部の富裕層や投資家のものという印象でした。
しかし、いまや企業も「社員が資本家になる」仕組みを整えています。
持株会でコツコツ積み立て、
株式報酬で会社の成長を自分の資産に変える。
給与に加えて、株式で報われる。
そんな新しい“働き方のかたち”が、静かに始まっています。
■ 次回予告
次回は、第2回
「ピケティの“r>g”をやさしく読む ― 資本で差がつく理由」
をお届けします。
なぜ“資本”を持つ人が豊かになるのか?
働くだけでは追いつけない構造を、図解でわかりやすく解説します。
📚 出典:
2025年10月19日 日本経済新聞朝刊
「資本騒乱 さらば運用貧国(5)株式報酬、従業員を資本家に」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
