第三者承継が地域経済を救う時代へ(第3回)金融機関が果たす役割と地域再生への影響

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第三者承継が全国で広がる中で、地域金融機関の役割がこれまで以上に重要になっています。金融機関は、融資の可否を判断するだけの存在ではなく、中小企業の経営状態を日常的に把握し、事業継続の可能性を最も早く察知できる立場にあります。

経営者の高齢化、返済状況の変化、資金繰りの悪化など、企業の「変化の兆し」に最初に気づくのは多くの場合、銀行や信用金庫・信用組合です。そのため、金融機関は第三者承継の起点となり、地域内の支援機関を結びつけるハブの役割を果たしています。

本稿では、兵庫県・新潟県・東京都などの事例を踏まえながら、金融機関が第三者承継で果たす役割を整理し、今後求められる機能について考えていきます。

1 金融機関は「企業の変化」に最初に気づく存在

中小企業の多くは、財務や事業計画の情報を外部に積極的に公開しません。しかし、金融機関には定期的に決算書が提出され、日々の入出金も把握され、融資の返済状況も逐一確認されます。

そのため、金融機関は企業の状態を最も客観的に把握できる立場にあり、次のような変化を早期に察知できます。

・経営者の高齢化
・資金繰りの悪化
・設備老朽化による投資の必要性
・後継者不在による事業停滞
・売上構造の変化

これらの変化は、放置すれば廃業につながる可能性があります。しかし、金融機関が早い段階で支援センターや商工会へつなぐことで、事業再生や承継へ方向転換できる場合があります。

金融機関が第三者承継を支える最も重要な役割は、「兆候の早期発見」と「適切な窓口への橋渡し」です。


2 兵庫県での成功例にみる連携の力

兵庫県は第三者承継の成約件数が全国で最も伸びた地域です。背景には、金融機関が地域内の支援機関と積極的に情報共有し、承継の機会を創出している点があります。

豊岡市の「継業バンク」の取り組みでは、信用金庫・商工会・市役所・事業承継センターが密接に連携し、後継者不在企業の情報を地域全体で共有します。金融機関は融資先の課題を把握し、承継ニーズがある企業をセンターに紹介し、マッチングの機会を提供しています。

40年以上続いた日本料理店を東京都の飲食企業が引き継いだ事例は、金融機関の連携が新たな担い手を呼び込んだ象徴的な例です。事業を引き継いだ企業は、新たに仕出し弁当の製造を始め、地域の需要に対応しました。

このように、金融機関は外部の担い手と地域をつなぎ、事業を進化させる役割を果たしています。


3 新潟県の「即応型」承継における金融機関の存在感

新潟県の岩室地域では、経営者が急逝した後、自転車店の廃業危機を金融機関が救いました。妻が巻信用組合に相談したことをきっかけに、引継ぎ支援センターや商工会と迅速に連携し、承継希望者とのマッチングをサポートしました。

この事例では、次の点が承継成立を早めました。

・金融機関がすぐに支援センターへ連絡したこと
・センターが専門家の無料相談制度を活用したこと
・商工会が地域のニーズを把握していたこと

最終的に、顧客企業であった整備機器会社が承継し、事業の再生に成功しました。

金融機関がスピード感をもって動くことで、生活インフラに近い業種の廃業を防ぐことができた好例です。


4 東京都の「アシスト会議」に見る多機関連携の成熟

都市部では、事業の規模や契約形態が複雑なため、単一機関では対応が難しいことがあります。こうした課題に対応するため、東京都では「東京チームサポートアシスト会議」が設置されました。

この会議では、
・信用金庫・信用組合
・東京信用保証協会
・事業承継・引継ぎ支援センター
・中小企業活性化協議会
が一堂に会し、個別企業の課題を共有します。

金融機関が融資先情報を提供し、支援機関が制度や専門家を組み合わせ、最適な承継ルートを検討します。都市型の第三者承継に必要な「多機関連携」が実現した例であり、他地域にも広がりつつあります。


5 金融機関の支援が承継を後押しする理由

第三者承継が金融機関と親和性が高い理由は、金融機関が担う三つの機能にあります。

(1)事業の存続可能性を見極める機能

財務内容・返済状況・取引状況を分析することで、事業が承継に向くかどうかを判断できます。

(2)支援機関との橋渡し

後継者不在企業を支援センターや商工団体につなぐことで、承継の準備がスムーズに始まります。

(3)承継後の資金支援

設備投資や運転資金など、承継後には資金需要が必ず発生します。金融機関はその部分もサポートできます。

特に第三者承継では、承継前後に投資が必要になるため、金融機関の継続的な支援が重要です。


6 これからの金融機関に求められる機能

第三者承継が地域で定着するためには、金融機関に次のようなスタンスが求められます。

・「融資」から「経営支援」への転換

単に資金を貸すだけではなく、経営者と対話し、将来の承継や成長計画までサポートする姿勢が必要です。

・情報の積極的な共有

金融機関は企業情報を最も持っていますが、それを地域の支援機関と共有することで承継の成功率が高まります。

・担い手側の支援にも関与

買い手の創業融資や設備投資計画を支援することで、承継後の定着と成長を後押しできます。

第三者承継は、金融機関にとっても地域にとっても「未来への投資」です。


結論

金融機関は、第三者承継の成功を左右する中心的な存在です。企業の課題を早期に察知し、支援センターや商工会などの機関と連携することで、廃業危機にある企業を再生のルートへ導くことができます。

兵庫県、新潟県、東京都の事例が示すように、金融機関が積極的に関わる地域では、第三者承継の件数が増え、事業の存続・地域雇用の維持・地域文化の保全につながっています。

第三者承継が地域経済のインフラとして機能するには、金融機関が「承継の入口」から「承継後の成長支援」まで一貫して関わることが不可欠です。事業者、担い手、支援機関を結びつける金融機関の役割が、これからの地域経済を支える大きな力になると考えられます。


参考

・日本経済新聞(2025年12月6日)
・事業承継・引継ぎ支援センター
・金融庁「事業性評価」資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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