第三者承継が地域経済を救う時代へ【第6回】第三者承継のリスク管理 見落としやすい「落とし穴」と備え方

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第三者承継は、廃業を回避しつつ事業を未来につなぐ有力な選択肢です。一方で、引き継ぎ方や準備のやり方を誤ると、買い手・売り手の双方にとって負担の大きい結果になりかねません。

簿外債務の発覚、従業員の大量離職、主要取引先の離反、許認可の問題など、承継の現場ではさまざまなリスクが表面化します。こうしたリスクは、事前に知っておけば多くを軽減したり、回避したりすることが可能です。

今回は、第三者承継に特有のリスクを整理し、どのように管理・対処していくかについて確認します。

1. 第三者承継に潜む主なリスク

第三者承継に特有のリスクは、大きく次の5つに整理できます。

  1. 財務・税務に関するリスク
  2. 法務・契約・許認可に関するリスク
  3. 人・組織・文化に関するリスク
  4. 事業環境・営業に関するリスク
  5. コミュニケーション不足から生じる誤解・対立

それぞれの典型例と、備え方を見ていきます。


2. 財務・税務のリスク

——「知らなかった負債」が後から出てくる怖さ

第三者承継で特に注意が必要なのが財務・税務面のリスクです。

(1)簿外債務・偶発債務

  • 長期の未払残業代
  • 保証債務、連帯保証
  • 過去の税務調査で指摘されそうな論点 など

株式譲渡の場合、会社そのものを引き継ぐため、こうした負債も原則として新しいオーナーが負うことになります。

対策のポイント

  • 財務デューデリジェンス(財務DD)で過去数年分を確認する
  • 税務申告内容や節税スキームの妥当性を税理士に確認してもらう
  • 不安な点は契約書上で「表明保証」条項として明文化する

(2)税務リスクとキャッシュフロー

  • 消費税の未払い・誤り
  • 資産の評価替えによる税負担
  • 承継後の納税資金不足 など

承継時の価格交渉では「税金を払った後に手元にいくら残るか」「承継後の返済や納税に耐えられるか」をセットで考える必要があります。


3. 法務・契約・許認可のリスク

——「引き継いだつもりが引き継げていなかった」

(1)主要契約の名義変更・承継不可条項

  • 重要な取引契約に「承継禁止」「変更時は要承諾」という条項がある
  • 大口顧客との契約が個人名義になっている
    こうした場合、承継後に取引条件が変わる可能性があります。

対策

  • 事業譲渡の場合、主要契約の条文を事前にチェック
  • 必要に応じて、相手先に「承継の説明」と「承諾取り付け」を行う

(2)許認可・資格が個人名義になっているケース

飲食業、旅館業、建設業などでは、許認可や資格が前経営者個人に紐づいていることもあります。

対策

  • 承継の前に、どの許認可が会社名義か、個人名義かを整理
  • 承継後も継続使用できるか、再取得が必要かを行政書士等に確認
  • 事業譲渡時は、許認可の引き継ぎが可能かどうかを事前に検討

4. 人・組織・文化のリスク

——数字だけでは見えない「現場」の温度差

第三者承継では、経営者だけが外部から変わるケースが多数です。そのため、従業員や取引先が心理的に不安を抱くことがあります。

(1)従業員の離職リスク

  • 「知らない人が社長になった」
  • 「待遇が悪くなるのでは」
  • 「社風が変わるのでは」

こうした不安から、キーパーソンほど先に退職してしまうこともあります。

対策

  • 承継前(または直後)に、旧経営者からの丁寧な紹介の場を設ける
  • 当面の雇用・待遇方針を明確に示す
  • 現場の声を聞く面談の機会を早期に設ける

(2)文化のミスマッチ

  • 家族経営的な雰囲気の職場に、急に大企業のようなルールを導入する
  • 長年のやり方を一気に変えて、反発を生む

変化は必要ですが、「変え方」には順番とスピードが求められます。


5. 事業環境・営業のリスク

——売上が「想定通りに維持できない」可能性

(1)主要顧客の離反

  • 主要顧客が「前の社長との信頼」で取引していた
  • 新体制への信頼が醸成される前に、別の取引先に切り替えられてしまう

対策

  • 承継前から主要顧客に対し、旧・新経営者が一緒に説明に回る
  • 当面は取引条件を変えない方針を示す
  • 新たな提案は、信頼関係を築いてから少しずつ行う

(2)事業環境の変化を見誤るリスク

承継直後に

  • 原材料高
  • 競合の参入
  • 規制変更
    などが起きることもあります。過去の数字だけを前提に事業計画を立てるのは危険です。

6. リスク管理のための実務的な工夫

  1. 専門家のチームをつくる
    • 税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士など
  2. 基本合意(LOI)の段階で条件を大枠整理する
  3. デューデリジェンスを省略しない(規模に応じた範囲で)
  4. 契約書に表明保証・補償条項を盛り込む
  5. 承継後の「100日プラン」を事前に描く(次回のテーマ)

結論

第三者承継には、多くのメリットと同時に、見えにくいリスクが存在します。ただし、その多くは事前の準備と専門家の関与によって軽減できます。

重要なのは、

  • 「何がリスクになり得るのか」を知ること
  • 「どこまで自力で対応できて、どこから専門家が必要か」を見極めること
    です。

次回は、リスクを踏まえつつ、承継後の最初の100日をどう動くかという実務的な視点から、具体的なアクションプランを整理します。


参考

・中小企業庁「事業承継ガイドライン」
・各地の事業承継・引継ぎ支援センター 公表資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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