2025年、高市早苗政権のもとで日本経済は新たな局面に入りました。
「積極財政」というキーワードが、久しく忘れられていた「政策による成長」を再び市場の中心に押し出しました。
日経平均株価は史上初の5万2000円を突破。
背景には、防衛・公共投資の拡大、AI関連需要の拡大、海外投資家の買い越し、
そして「財政拡張を成長へ転化させる政策期待」があります。
本書では、5回にわたり、税理士・経済政策の視点から積極財政を分析しました。
ここではその全体像を整理し、政策・税制・市場の関係を立体的に読み解きます。
第1章 積極財政と株価の相関 ― 政策期待が市場を動かす
2025年10月、日経平均株価は初めて5万2000円台に乗せました。
高市首相の就任をきっかけに、防衛・インフラ・AI関連株が上昇し、「高市トレード」と呼ばれる相場が形成されました。
海外投資家は10月に現物株を3兆円超買い越し。
市場が評価したのは、「実行力ある財政拡張」でした。
積極財政は、需要創出と企業収益の押上げを通じ、株価を上昇させる構造を持ちます。
ただし、これは期待に支えられた局面でもあります。
財政と市場の関係は、常に「信認」という繊細な均衡の上に成り立っている点を忘れてはなりません。
第2章 租税特別措置の再設計 ― 減税から成長投資へ
積極財政を持続させるために、政府は「財源の再構成」に動いています。
中心となるのが、租税特別措置(租特)の再設計です。
研究開発税制や賃上げ促進税制は、これまで大企業中心の優遇として批判されてきました。
今後は、「社会的成果」や「人的資本投資」を条件にした選択的減税へ転換が進む見通しです。
租特は単なる減税ではなく、「どの産業を国家が後押しするか」を示す政策装置です。
したがって、税理士や企業経営者は、租特改正の方向を読むことで、
中期的な資金配分や経営戦略を見通すことができます。
第3章 防衛投資・公共投資の波及効果 ― 成長を支える構造転換
防衛費のGDP比2%目標の前倒しは、経済安全保障政策の転換点です。
防衛関連だけでなく、電子部品・情報通信・素材産業にも波及効果が広がり、
新しい産業連携のエコシステムが生まれています。
公共投資も、従来のインフラ整備から「デジタル公共投資」へとシフトしています。
5G・防災通信網・スマートシティなど、建設・IT・通信が融合する分野では、
会計・税務・契約処理の高度化が同時に求められています。
防衛・公共投資1兆円あたりのGDP押上げ効果は約1.6兆円。
中小企業や地方経済にも波及し、税収基盤を広げる「乗数効果」を持つことが特徴です。
第4章 積極財政の持続条件 ― インフレ・金利・財源のトライアングル
積極財政が持続するには、インフレ・金利・財源の三要素の均衡が不可欠です。
- インフレ:3%台の物価上昇を成長の証とするか、家計負担とみるか。
- 金利:国債費増加のリスクと、企業投資コストの上昇リスクのバランス。
- 財源:租特縮小・税収増・補助金整理などによる再配分の設計。
これらが連動して政策の「呼吸」を形づくります。
金融緩和と財政拡張を同時に運営する日本は、いま「拡張と安定の中間」を模索しています。
税理士・会計人にとって、マクロ環境を理解した助言力が問われる時代に入りました。
第5章 税制と企業戦略 ― 政策を経営に翻訳する時代へ
積極財政の波は、税制・企業経営・会計処理を一体で動かしています。
- 税制:租特の再配分が進み、「政策整合性」が企業評価の軸に。
- 経営:補助金・公共調達・金融政策を踏まえた投資判断が必要に。
- 会計:補助金・長期契約・防衛関連支出など、税務と会計の乖離管理が重要化。
税理士は、これまでの「制度適用者」から「政策翻訳者」へと役割が拡大しています。
政策を理解し、それを経営に落とし込むスキルが専門職の新しい価値になります。
総括 ― 「政策で動く時代」にどう備えるか
積極財政は、景気刺激策であると同時に、国家構造の再設計です。
財政の拡張、税制の再構築、産業の再編、金融の再均衡。
そのすべてが相互に作用し、経済を再構成していきます。
市場が政策に反応し、政策が市場を動かす。
この循環の中で、税理士・会計専門職は、
「数字を扱う人」から「政策を読み解く人」へと変わることが求められています。
積極財政の時代とは、政策と実務が交差する時代です。
制度の変化を先読みし、数字の裏にある意図を読み解く――。
それこそが、これからの専門職に課せられた最大の使命です。
用語解説
- 積極財政:財政支出を拡大し、景気刺激や成長を目指す政策。
- 租税特別措置(租特):特定の政策目的に応じた税制上の特例。研究開発減税や賃上げ促進税制など。
- 防衛投資:防衛力強化や安全保障関連の支出。民間企業の技術・生産体制も対象。
- 公共投資:道路・防災・デジタルインフラなど、公共事業による支出。
- トライアングル・バランス:インフレ・金利・財源の均衡を指す政策運営上の概念。
- 政策翻訳者:政策内容を経営・財務・税務の実務に落とし込む専門職の新しい役割。
出典
・日本経済新聞「日経平均初の5万2000円台 高市相場、10月上げ最大」(2025年11月1日)
・財務省「令和7年度税制改正要望主要項目」
・防衛省「防衛力整備計画(2025年度版)」
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025」
・日本銀行「金融政策決定会合 議事要旨(2025年10月)」
・経済産業研究所(RIETI)「防衛・公共投資の波及効果分析(2024)」
・日本商工会議所「租税特別措置の利用実態調査(2024)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
