税負担の公平はどこまで進むのか ― オーナー経営者に及ぶ影響を考える

税理士
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令和8年度税制改正大綱では、「税負担の適正化」や「公平性の確保」という言葉が繰り返し示されています。物価高対策や成長促進策と並び、再分配機能の強化が政策の重要な柱とされています。

しかし、税負担の公平という概念は抽象的です。実務の現場では、誰の負担がどのように変わるのかが最も重要です。本稿では、高所得者課税や金融所得課税の見直しが、中小企業オーナー経営者にどのような影響を及ぼすのかを整理します。


垂直的公平の強化という方向性

税制における公平には、大きく分けて垂直的公平と水平的公平があります。

垂直的公平とは、負担能力の高い者により多くの税負担を求めるという考え方です。今回の改正議論では、この垂直的公平の強化が明確な方向性として示されています。

具体的には、極めて高い所得水準の者に対する追加的な負担措置の見直しや、金融所得に対する課税の在り方が検討対象となっています。

中小企業オーナーにとっては、法人所得と個人所得の双方に関わる問題です。役員報酬、配当、株式譲渡益など、複数の所得区分が関係します。


金融所得課税とオーナー経営者

金融所得課税の見直しは、資産所得の再分配機能を高める目的があります。

現在、上場株式等の譲渡益や配当は分離課税が基本であり、一定の税率で課税されています。この仕組みは資本市場の活性化を支えてきました。

しかし、勤労所得との税率差が議論の対象となることがあります。金融所得課税の強化は、資産形成層や投資家だけでなく、事業承継を見据えたオーナー経営者にも影響します。

自社株式の売却益や配当政策の設計は、税率構造に大きく左右されます。税制の方向性次第では、資産管理会社の活用や持株比率の調整といった戦略にも変化が生じます。


NISA政策との整合性

一方で、資産形成支援策としてのNISA制度は拡充されています。

税負担の公平を強化する方向と、資産形成を後押しする方向は、一見すると矛盾するようにも見えます。しかし、政策目的が異なります。

NISAは中間層の資産形成支援を主眼とし、金融所得課税の見直しは高所得層への再分配機能の強化を意図しています。

問題は、その境界線をどこに引くのかという点です。中小企業オーナーは、法人経営者であると同時に個人投資家でもあります。制度間のバランスが崩れれば、資本市場への参加意欲や資産管理戦略に影響が及びます。


法人と個人の税負担の接点

中小企業経営では、法人税と個人所得税の最適バランスが常に課題となります。

役員報酬をどこまで設定するか、配当を出すか内部留保とするか、退職金をどのタイミングで支給するか。これらは税制に強く依存します。

税負担の公平が強調される局面では、個人課税の強化が先行する可能性があります。その場合、法人から個人への所得移転の設計を見直す必要が生じます。

また、事業承継税制や相続税制との連動も重要です。資産評価の在り方や課税ベースの見直しが進めば、長期的な承継戦略にも影響を及ぼします。


公平と成長の両立は可能か

税負担の公平を強化することは、再分配機能の観点からは合理的です。しかし、過度な負担増は投資意欲や事業拡大の意欲を減退させる可能性があります。

中小企業の成長は、経営者のリスクテイクに依存します。税制がそのインセンティブをどの程度尊重するかは、経済全体の活力に直結します。

公平と成長は対立概念ではありませんが、設計次第では緊張関係を生みます。今回の大綱は、そのバランスを模索する内容となっています。


結論

令和8年度税制改正大綱における税負担の公平強化は、再分配機能の強化という明確な政策意図を持っています。

中小企業オーナー経営者にとっては、金融所得課税や高所得者課税の見直しが、資産管理や配当政策、事業承継戦略に影響を及ぼします。

重要なのは、短期的な税率の変動だけでなく、制度の方向性を見極めることです。法人と個人の税負担構造を総合的に捉え、自社の長期戦略と整合させる視点が求められます。

次回は、「中小企業税制の見直しと実務への影響」をテーマに、賃上げ税制・設備投資減税・交際費課税などの具体論点を整理します。


参考

・自由民主党・公明党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月公表)
・税理士界 第1457号(令和8年2月15日発行)特集「令和8年度税制改正大綱を検証」

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