政府が決定したAI基本計画は、医療や金融、行政といった分野を中心に、国が主導してAIの開発と社会実装を進める方針を明確にしました。
この動きは、税理士やFP、行政書士、社労士などの士業にも確実に影響を及ぼします。
AIは「脅威」として語られることも多い一方で、実務のあり方を見直す契機でもあります。
本記事では、AI基本計画を踏まえ、士業の実務がどのように変わっていくのかを整理します。
AI基本計画が士業と無関係ではない理由
AI基本計画は、単なる技術振興策ではありません。
行政の業務効率化、金融分野での審査・分析の高度化、データ活用の推進など、士業の業務領域と重なるテーマが数多く含まれています。
特に税務・会計・金融・法務は、
・定型的な判断
・大量のデータ処理
・ルールに基づく文書作成
といった業務が多く、AIの活用余地が大きい分野です。
国がAI活用を前提とした制度設計を進めることで、士業の実務環境そのものが変化していくことになります。
定型業務はさらに自動化が進む
税理士やFPの業務の中には、すでにAIやITによる自動化が進んでいる領域があります。
記帳、仕訳、集計、定型的な資料作成などは、その代表例です。
AI基本計画により、
・行政側のデータ連携の高度化
・標準化された手続きの増加
・AIによる審査補助の導入
が進めば、こうした定型業務は今後さらに効率化されていきます。
これは「仕事が奪われる」というより、「人がやらなくてよい作業が増える」と捉える方が現実的です。
行政AI活用が実務に与える影響
AI基本計画では、中央省庁や地方自治体でのAI活用が本格化するとされています。
行政文書の作成、申請書類の審査補助などにAIが導入されれば、士業が関与する手続きの流れも変わります。
例えば、
・提出書類の形式チェック
・記載漏れや不整合の検出
・過去データとの照合
といった作業は、行政側でAIが担う可能性が高まります。
その結果、士業には「形式を整える役割」よりも、「内容の妥当性を説明する役割」が強く求められるようになります。
専門職に残る価値はどこにあるか
AIが普及しても、士業の価値がなくなるわけではありません。
むしろ、価値の所在が明確になります。
AIが得意なのは、
・過去データに基づく処理
・ルールの適用
・大量情報の整理
です。
一方で、
・制度の背景を踏まえた説明
・個別事情を考慮した判断
・将来を見据えた選択肢の提示
は、依然として人の役割です。
税理士やFPは、「計算する人」から「意思決定を支援する人」へと軸足を移す必要があります。
AIリテラシーが士業の必須スキルになる
AI基本計画では、国民全体にAIリテラシーが求められるとされています。
これは士業にとって、さらに重要な意味を持ちます。
顧問先や相談者は、
・AIでできること
・AIに任せてはいけないこと
・AIの結果をどう解釈すべきか
を専門家に確認するようになります。
士業自身がAIの特性や限界を理解していなければ、適切な助言はできません。
AIを「使えるかどうか」ではなく、「どう位置づけるか」が問われる時代になります。
「信頼できるAI」と士業の役割
政府は「信頼できるAI」を掲げ、安全性や透明性を重視しています。
この流れは、士業の実務とも親和性があります。
税務や金融、法務は、
・説明責任
・根拠の明確化
・利用者の理解
が不可欠な分野です。
AIを活用した結果について、
「なぜそうなるのか」
「どこまで信用できるのか」
を説明する役割を、士業が担う場面は増えていくでしょう。
結論
AI基本計画は、士業にとって避けて通れない環境変化を示しています。
定型業務はAIに委ね、人は判断・説明・伴走に集中する。
その方向性は、すでに始まっています。
AIを使うかどうかではなく、
AIとどう役割分担するか。
それが、これからの税理士・FP・士業に問われる本質です。
参考
・日本経済新聞「AI開発強化、国が主導 政府が基本計画決定」
・政府発表資料「AI基本計画」
・政府発表資料「AI研究開発ガイドライン」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

