中小企業庁が全国47都道府県に設置する「よろず支援拠点」。
2024年度の相談件数は71万件超と、5年間で約2.2倍に増加しました。
資金繰り、販路開拓、創業支援、補助金申請、事業承継――
中小企業が直面するあらゆる課題を“ワンストップ”で支援する体制が整っています。
特徴は、地元金融機関・商工会議所・ジェトロ・大学・専門士業などと連携し、
「複数の専門家が伴走する支援モデル」をとっている点。
近年はAI・DX・生産性向上支援にも踏み込んでおり、
税理士・FPが関わる余地は一段と広がっています。
■ 現場に学ぶ:鹿児島モデルにみる“伴走型支援”の実例
全国でも相談件数が急増したのが鹿児島県(5年間で6.4倍)。
同県の拠点では、33名のコーディネーターが離島も含めた出張相談を行い、
経営課題を現場で掘り起こしています。
例:定食店「山田食堂ととや」(鹿児島市)
「食堂の味を守りながら冷凍食品に展開したい」という依頼に対し、
14人のコーディネーターが関与。
- 事業再構築補助金の申請支援
- インスタ活用によるブランド構築
- 商標出願支援(冷凍定食)
- 高島屋・ふるさと納税サイトへの販路提携
多職種連携の“実行型”支援が成果を上げた好例です。
このような支援案件では、補助金の申請書作成や収益構造分析、税務的整合性の確認などで税理士の関与が有効です。
「数字」と「戦略」を橋渡しする専門家として、
拠点コーディネーターとの協働が企業の成長速度を大きく変えます。
■ 税理士・FPが連携すべき3つの局面
① 補助金・助成金の戦略設計
- 事業再構築補助金・ものづくり補助金・持続化補助金などは、採択の可否が「収益性と実現性の説明力」に左右されます。
- よろず支援拠点は補助金情報の最新動向を常時把握しており、採択後のフォローも可能。
- 税理士が事業計画書の財務部分を監修し、FPが資金繰り・保険・事業承継プランを補完する連携が理想です。
② 経営改善・資金繰りモニタリング
- 経営改善計画策定支援事業(405事業)や、商工会議所の経営安定特別相談員制度と接続可能。
- よろず支援拠点を経由して「再生支援協議会」や「信用保証協会」へつなぐ流れも多い。
- 月次試算表や資金繰り表の提供により、“税理士+よろず+金融機関”の三位一体支援が実現します。
③ 創業・第二創業・M&A支援
- 奈良県では創業相談が全体の約3割を占めるなど、創業支援の中心的存在に。
- 事業承継・M&A案件では、FPがライフプラン・退職金設計を担い、税理士が税務・資産移転設計を補う形で連携できます。
- 拠点経由で「事業承継・引継ぎ支援センター」と接続されるケースも増えています。
■ 今後の方向性:2026年度「生産性支援チーム」構想
政府は2025年度の最低賃金引き上げを受け、
2026年度には全国の拠点に生産性向上専門組織を新設予定です。
これにより、
- デジタル化・AI導入支援
- 労務・人件費管理
- 設備投資・税制優遇の活用(中小企業経営強化税制など)
といった領域が拡大。
税理士・FPにとっても、「数値×経営×テクノロジー」を一体で支援する実務力が求められる時代に入ります。
■ 実務家が押さえるべき「連携の心得」
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 1. 地元拠点の顔を知る | 各拠点にチーフコーディネーターが常駐。商工会議所・金融機関経由で紹介可。 |
| 2. 分野を明確に伝える | 「補助金」「DX」「事業承継」など、得意分野を明示するとマッチングがスムーズ。 |
| 3. 守秘義務と情報共有の線引きを明確に | クライアント情報を扱うため、守秘義務契約や同意書の確認を忘れずに。 |
| 4. 成果は“伴走”の共有で測る | 拠点→税理士・FP→企業という縦の関係ではなく、“並走”の姿勢が信頼を生む。 |
■ まとめ:地域支援の「つなぎ役」としての専門家へ
よろず支援拠点は、中小企業の挑戦と再生のハブです。
そして、税理士・FPはそのハブをつなぐ「専門家ネットワークの要」になり得ます。
顧問先が資金繰りや新規事業で悩んでいるなら、
「一度、よろず支援拠点に相談してみましょう」と声をかけてみてください。
その一言が、新しい連携の起点になります。
出典・参考:
- 日本経済新聞 2025年10月25日 朝刊「中小支援『よろず拠点』盛況」
- 中小企業庁「よろず支援拠点」公式サイト
- 経済産業省「中小企業政策審議会」資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
