税務調査の「いま」を知る ― 元国税調査官が語る現場の変化と企業の備え方

税理士
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かつては突然やってくる「恐怖の訪問」と言われた税務調査。
しかし近年、その実態は大きく変わりつつあります。
2026年には国税庁の新システム「KSK2」が稼働予定。AIとデータ連携を活用した「見える化された調査」が進むなか、私たち事業者がどんな点に注意すべきか――今回は最新の動向と、指摘されやすいポイントをわかりやすく整理します。


1. 税務調査の現場が「デジタル化」で激変

国税庁は2023年に「税務行政のDX構想」を発表し、
①納税者の利便性向上
②課税・徴収事務の効率化
③事業者のデジタル化促進
を三本柱として推進しています。

これにより、税務調査の現場も様変わりしました。
これまで紙中心だった処理は電子化が進み、会計データや取引履歴をもとにAIがリスクを自動検知。
「勘」や「経験」だけでなく、データによる選定と分析が主流になっています元国税調査官が教える「税務調査」の現在地―指摘されやすい項目と…。


2. 税務署が注目する「8つの主要項目」

元調査官の遠山優里氏によると、調査で特に重点を置かれるのは次の8分野です。

区分主なチェックポイント
売上売上除外・繰延べ・モノの流れの不整合
原価架空仕入・棚卸除外・廃棄損の妥当性
役員報酬・人件費定時定額支給・過大給与・架空人件費
交際費等他科目処理(会議費・福利厚生費)や水増し人数
固定資産耐用年数・付随費用・除却損の証明資料
個人的経費家族旅行・私物購入の経費化・役員車の処理
消費税軽減税率の区分・インボイス対応・控除率
源泉所得税経済的利益・報酬の源泉漏れ・退職金の扱い

特にSNS投稿やレシート情報から私的支出が判明するケースも増えており、「見られている意識」を持つことが重要です元国税調査官が教える「税務調査」の現在地―指摘されやすい項目と…。


3. 会計ソフトを使っていても「安心」はできない

クラウド会計や自動仕訳の導入で経理は効率化しましたが、
設定ミスや誤学習により「交際費が寄附金に」「耐用年数が誤登録に」といった誤処理が起きやすいのも現実です。

国税局には会計データをCSVで解析できる専門官が配置され、仕訳履歴・訂正・削除情報までチェックされるようになりました。
つまり、「データをどう処理したか」も調査対象なのです元国税調査官が教える「税務調査」の現在地―指摘されやすい項目と…。


4. AIによる「選定」とは何か

AIが分析して選定した法人に対し、調査官が臨場する――
そんな新時代の調査が始まっています。
ただしAIが「なぜ選定したか」を完全に説明できるわけではなく、現場でも試行錯誤の段階。

とはいえ、高収益企業・現金取引が多い業種・関連会社取引が多い法人など、従来から注目されてきた層が依然として主対象です。
AI選定は「魔法のブラックボックス」ではなく、過去の傾向を強化したリスク分析と捉えるのが実態に近いでしょう。


5. 調査を「恐れ」から「改善のチャンス」へ

調査に入られることはネガティブな出来事ではありません。
自社の記帳フローや内部統制、経費処理を見直すきっかけにもなります。

特に中小企業では、

  • 領収書の保存ルール
  • 経費精算書の根拠
  • 棚卸資産や備品の実態確認
    といった基本の徹底が最大の防御策です。

また、調査官とのやりとりを通じて、税務リスクの考え方を学ぶ姿勢も大切です。
「正しく申告する企業」こそ、最も強い信頼を得られます。


6. まとめ ― デジタル時代の税務調査対策

  • KSK2の導入で「すべての税目を横断的に把握」される時代へ
  • SNSや電子データも調査対象になる可能性
  • 会計ソフト任せではなく、人の目によるチェック体制が不可欠
  • 日々の経理が「そのまま調査資料」になることを意識する

税務調査は“過去を掘り返す場”ではなく、未来の信頼を積み上げる場へ。
デジタル化が進む今こそ、「見られても困らない経理」を目指しましょう。


出典:企業実務 2025年8月号
『元国税調査官が教える「税務調査」の現在地 ― 指摘されやすい項目と対策』(一般社団法人ハート・タックス協会 代表理事 税理士 遠山優里)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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