取適法の施行により、企業の取引実務は大きく変化しています。
この変化は税務調査にも影響を与え、従来は見過ごされていた処理が否認されるケースも増えると考えられます。
特に重要なのは、形式的には問題がなくても、実態に問題がある場合に否認されるリスクです。
本稿では、実務上よく見られる否認パターンを整理します。
否認が増える背景
近年の税務調査では、単なる帳簿の整合性ではなく、取引の実態が重視されています。
取適法の影響により、
- 取引条件の妥当性
- 支払の適正性
- 価格決定のプロセス
といった点が確認対象となります。
このため、従来の延長線上の処理では対応しきれない場面が増えています。
パターン① 振込手数料の差引き処理
最も典型的なのが振込手数料の差引きです。
従来は広く行われてきた処理ですが、取適法の下では減額とみなされる可能性があります。
税務調査では、
- 契約金額と支払額が一致しているか
- 差引き処理が行われていないか
が確認されます。
差額がある場合、その理由を説明できなければ問題となります。
パターン② 名目を変えた実質的な減額
形式上は適法に見えても、実質的に減額となっているケースです。
例えば、
- 手数料負担を変更する代わりに単価を引き下げる
- 別名目の費用として差し引く
といった処理です。
このような場合、取引全体としての実態が問われます。
パターン③ 単価の不自然な変動
単価や条件が不自然に変動している場合も注意が必要です。
- 特定の時期に急激に単価が下がる
- 特定の取引先だけ条件が異なる
これらは価格決定の妥当性が問われる要因となります。
調査では、その理由や交渉過程の説明が求められます。
パターン④ 証憑と実態の不一致
インボイス制度の下では、証憑の整備が重視されます。
しかし、証憑が存在していても、実態と一致していなければ問題となります。
例えば、
- 請求書の内容と実際の支払内容が異なる
- 手数料の負担関係が証憑と一致していない
といったケースです。
パターン⑤ 支払条件の不適切な設定
支払期日や支払方法が適切でない場合も否認リスクがあります。
- 支払遅延が発生している
- 不合理な支払条件が設定されている
これらは取適法の観点から問題となり、調査対象となり得ます。
パターン⑥ 説明できない取引
最終的に最も重要なのは、「説明できるかどうか」です。
次のような状態はリスクが高いといえます。
- なぜその条件で取引したのか分からない
- 誰が判断したのか不明確
- 記録が残っていない
このような場合、形式的に問題がなくても否認される可能性があります。
否認を防ぐための基本対応
否認リスクを抑えるためには、次の対応が重要です。
- 契約条件と支払内容の一致
- 手数料処理の適正化
- 単価変動の理由の記録
- 証憑の体系的な管理
これらを日常業務の中で徹底することが必要です。
経理に求められる役割の変化
このような環境の中で、経理の役割は変わっています。
- 取引内容の把握
- リスクの早期検知
- 判断基準の整理
- 説明資料の整備
単なる記録ではなく、取引の妥当性を支える機能が求められます。
結論
取適法の影響により、税務調査における否認リスクは変化しています。
形式だけでなく、実態と説明可能性が重視される時代において、従来の処理を見直す必要があります。
否認されるかどうかの分かれ目は、特別な知識ではなく、日常業務の設計にあります。
経理部門が中心となり、取引の透明性と一貫性を確保することが、最も有効な対策といえます。
参考
企業実務 2026年4月号
中小企業庁 公表資料 中小受託取引適正化法の概要
国税庁 税務調査に関する基本的考え方
国税庁 適格請求書等保存方式に関する解説資料