近年、国税庁は大企業に対する税務行政のあり方として、従来の「調査中心型」から「協力的コンプライアンス型」への転換を進めています。その中心にある考え方が「税務に関するコーポレートガバナンス(税務CG)」です。
税務CGとは、企業内部において税務コンプライアンスを確保するための統制体制を意味します。企業が自ら税務リスクを管理し、適正申告を実現する体制を整備することで、税務調査との関係もより建設的なものにしていくという考え方です。
2026年2月、国税庁は令和6事務年度における税務CGの実施状況と、税務調査で把握された誤りに対する再発防止策の取組事例を公表しました。本稿では、その内容を整理しながら、日本企業の税務ガバナンスの現状と課題を考えていきます。
税務コーポレートガバナンスとは何か
税務CGは、企業の税務コンプライアンス体制を評価する枠組みとして国税庁が導入したものです。主な対象は、大企業を中心とする調査課所管法人や特別国税調査官所掌法人です。
国税庁は税務調査の機会などを通じて企業の税務CGの状況を確認し、その結果を企業の経営責任者に直接伝達します。評価は次の3区分で行われます。
- 良好
- おおむね良好
- 改善が必要
評価結果の説明だけでなく、必要に応じて改善点についての意見交換も行われます。このプロセスを通じて企業の自主的な税務コンプライアンスの向上を促すことが目的とされています。
特に税務CGの充実が期待される企業として、国税庁は次のような企業を挙げています。
- 内部統制報告書の提出義務がある上場企業
- 会社法に基づき内部統制システムの整備が求められる企業
- 売上高や従業員数などが一定規模以上の企業
つまり、企業統治の仕組みを持つ企業ほど、税務面でも統制体制の整備が求められているということです。
税務CGの評価結果
令和6事務年度では、特別国税調査官所掌法人125社について税務CGの状況が確認されました。
評価結果の内訳は次の通りです。
- おおむね良好 95社(76%)
- 良好 22社(18%)
- 改善が必要 8社(6%)
多くの企業が一定水準の税務ガバナンスを備えていると評価された一方で、内部体制の整備に課題が残る企業も存在していることが分かります。
評価項目ごとの傾向を見ると、次の分野では評価が比較的高くなっています。
- 経営責任者の関与・指導
- 帳簿書類の保存
- 税務情報の社内周知
一方で、課題が多い分野として次の点が指摘されています。
- 税務担当部署の体制
- 税務に関する内部牽制体制
- 税務調査指摘事項の再発防止
つまり、日本企業では「制度や書類」は整備されていても、実務運用や組織体制の部分に弱さが残るケースがあるといえます。
再発防止促進プログラムとは何か
国税庁は税務調査で発見された誤りについて、単なる指摘にとどめず、企業が再発防止策を策定することを促す「再発防止促進プログラム」を実施しています。
このプログラムでは、誤りが発生した原因を企業と共有し、組織的な改善策を検討することが重視されています。
今回公表された事例は、企業における税務リスクの実態を示すものとして興味深い内容となっています。
事例① 外国子会社合算税制の申告漏れ
一つ目の事例は、外国子会社合算税制に関する申告漏れです。
原因として指摘されたのは次の点でした。
- 税務担当部署の人員不足
- 異動直後の担当者の知識不足
- チェック体制の不備
再発防止策として企業が実施したのは次のような取組です。
- 税務部署の体制強化
- 海外子会社情報の精査体制の構築
- 税理士法人社員の出向受け入れ
- 確認項目を統一したチェックシートの作成
国際税務は高度な専門知識を必要とするため、担当者の経験や体制整備が重要であることが改めて示されています。
事例② 実態のない業務委託費
二つ目の事例は、子会社への利益供与を目的とした実態のない業務委託費の計上です。
問題の背景には次のような事情がありました。
- 子会社支援を社内で承認してもらえない
- そのため架空の業務委託契約を作成
- 不正に社内承認を取得
さらに、企業内部でこうした行為に対する抵抗感が弱かったことも指摘されています。
再発防止策としては、次の取組が行われました。
- 懲戒処分事例集の作成
- コンプライアンス研修の実施
- 社内掲示板や社内ニュースによる周知
この事例は、税務問題というよりも企業倫理や内部統制の問題としての側面が強いといえます。
事例③ 工事原価の過大計上
三つ目の事例は、工事原価の見積計上に関する問題です。
原因として指摘されたのは次の点でした。
- 現場責任者の裁量が大きい
- 支店経理が内容を十分確認できていない
再発防止策として企業は次のような取組を行いました。
- 役員による支店巡回
- 過去の税務調査事例の共有
- 社員向け勉強会の開催
現場主導型の企業では、現場と経理の情報連携が弱いことが税務リスクにつながるケースが少なくありません。
税務CGが意味するもの
今回の公表内容から見えてくるのは、税務リスクの多くが単純な税法解釈の問題ではなく、企業内部の組織運営や統制体制と深く関係しているという点です。
具体的には次のような要因が背景にあります。
- 税務人材の不足
- 組織間の情報連携不足
- コンプライアンス意識の低さ
- 内部統制の弱さ
つまり、税務CGとは単なる税務管理ではなく、企業統治の一部としての税務管理と位置付けるべきものだといえます。
結論
税務コーポレートガバナンスは、企業の税務コンプライアンスを高めるための新しい行政アプローチです。
今回の公表内容を見ると、日本企業の多くは一定の体制を整備しているものの、税務部署の体制や内部牽制、再発防止策などの面では依然として改善の余地があることが分かります。
また、税務問題の背景には、組織体制や企業文化といったガバナンスの問題が存在しているケースも少なくありません。
税務CGの強化は、単に税務リスクを減らすだけでなく、企業の透明性や信頼性を高めることにもつながります。今後は税務を経営課題の一つとして捉える視点が、企業にとってますます重要になっていくと考えられます。
参考
税のしるべ
2026年3月2日号
「6事務年度の税務CGの実施状況や取組事例を公表」
