税制改正ウォッチ⑥ 所得再分配と税制の未来 ― 累進課税・社会保険料・給付付き税額控除

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

所得格差の拡大と中間層の疲弊が進むなか、日本の税制と社会保障の再設計が大きなテーマとなっています。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」のもとで、財務省・厚生労働省・内閣府が連携し、所得再分配機能をいかに高めるかが問われています。
その中心的なキーワードが、累進課税の見直し・社会保険料の改革・給付付き税額控除の導入です。


累進課税の再評価

日本の所得税は、1950年代から続く累進構造によって再分配機能を果たしてきました。
しかし、近年は給与所得控除や各種の控除制度が複雑化し、実効税率の上昇が中間層に集中しています。
国税庁の統計によれば、年収1,500万~2,000万円層の所得税負担率が17.2%である一方、100億円超の層では16.2%にとどまります。

こうした「逆累進」現象を是正するため、ミニマム課税の対象拡大や高所得層向けの追加課税などが検討されています。
同時に、給与所得控除・基礎控除のバランスを見直し、「所得の構成に中立的な課税体系」をめざす議論が進んでいます。


社会保険料の再設計

税制と並ぶもう一つの負担構造が社会保険料です。
日本では、所得税よりも社会保険料(年金・医療・介護・雇用保険など)の負担増が家計を圧迫しています。
特に、年収500万~800万円程度の中間層では、税よりも社会保険料の方が重いという実態があります。

社会保険料は、上限額(標準報酬月額)を超えると負担率が実質的に下がるため、累進性が乏しい構造です。
このため、財務省・厚労省では「高所得層にも一定の応能負担を求めるべき」との意見が出ています。
保険料率を引き上げるのではなく、上限額を緩やかに引き上げる方向での見直しが現実的な選択肢として浮上しています。


給付付き税額控除という新しい再分配

低所得層や子育て世帯を支援するため、注目されているのが「給付付き税額控除(リファンダブル・タックスクレジット)」です。
これは、課税額がゼロでも一定の給付を受け取れる仕組みで、所得税と社会保障を一体化した新しい再分配手法です。
欧米ではすでに広く導入されており、特に米国の「EITC(勤労税額控除)」や英国の「ワーキングタックスクレジット」が代表例です。

日本でも、こども家庭庁が中心となり、「給付付き子育て支援税額控除」の導入を検討中です。
また、非課税世帯向け給付金制度との統合も議論されており、将来的には「税・社会保障の統合プラットフォーム」構想に発展する可能性があります。


再分配構造の三層化

これらの動きを整理すると、日本の再分配構造は次の三層で構成されつつあります。

  1. 税による再分配(累進課税・控除見直し)
     所得全体に応じた公平な課税を再構築。
  2. 社会保険による再分配(上限緩和・負担率調整)
     応能負担原則を社会保険制度にも反映。
  3. 給付付き税額控除による再分配(支援の自動化)
     行政手続を簡素化し、働く人・育てる人を直接支援。

この三層の調和が取れるかどうかが、次世代型税制の試金石となります。


結論

「所得再分配の再設計」は、単なる税率変更ではなく、日本社会の方向性そのものを問う課題です。
負担を公平にしながら、働く意欲や投資意欲を損なわない――このバランスをどう取るかが鍵になります。
税と社会保障の境界を超えた新しい再分配の枠組みは、「格差を埋める制度」から「機会を生む制度」への転換を意味します。
2026年度税制改正に向けた議論は、その第一歩となるでしょう。


出典

出典:日本経済新聞(2025年11月各紙面)、財務省「税制改正に関する基本的考え方」、厚生労働省「社会保障審議会・財政構造分科会」資料より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました