税制改正ウォッチ④ 税収構造の転換点 ― 高齢化・資産課税・環境税の再設計

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日本の税制は今、少子高齢化と経済構造の変化という二つの波に直面しています。
現役世代の負担増と税収の偏在が深刻化するなかで、「どこから、どのように税を集めるか」という構造的な見直しが避けられなくなっています。
本稿では、2026年度以降の議論の焦点となるとみられる3つのテーマ――高齢化対応、資産課税、環境税――を中心に整理します。


高齢化が進む中での税の再配分

総務省の推計では、65歳以上人口は2040年に全体の36%を占める見通しです。
一方で、現役世代(20~64歳)は減少を続け、所得税・社会保険料の負担を支える基盤が急速に縮小しています。

この構造変化を踏まえ、財務省は高齢者も一定の負担を分担する方向で議論を進めています。
具体的には、年金課税や医療費控除の見直し、退職所得控除の上限縮小などが検討対象です。
従来の「引退後は非課税・軽課税」という前提が崩れつつあり、世代間の公平性を保つ新たな税体系が求められています。


資産課税の再設計 ― 「所得から資産へ」

所得税の伸びが鈍る一方で、資産格差の拡大が顕著になっています。
金融庁のデータによると、金融資産3,000万円以上の世帯は全体の2割弱にすぎませんが、金融資産総額の6割以上を保有しています。

こうした資産偏在を是正するため、政府は「所得から資産へ」という課税ベースの転換を模索しています。
近年、相続税や贈与税の一体課税化、教育資金贈与の特例見直しなどがその流れの一環として行われてきました。
今後は、金融所得課税の一律15%という構造そのものを再検討する可能性もあります。
ただし、資産課税強化は市場や投資行動に影響を与えるため、「貯蓄から投資へ」の流れとどう整合させるかが大きな課題になります。


環境税の再評価 ― 炭素から循環へ

気候変動対策の観点から、環境税の新設・再編も議論の俎上に上がっています。
日本では2012年に「地球温暖化対策のための税(炭素税)」が導入されましたが、その税率は欧州諸国と比べて低水準です。
現在、政府内では炭素排出量に応じて課税する「カーボンプライシング」の本格導入が検討されています。

さらに、再生資源の利用促進や廃棄物削減を目的とした「循環型課税」の導入構想も進んでいます。
これは、単に環境負荷の高い行動を抑制するだけでなく、持続可能な経済活動を促すインセンティブとして機能させるものです。
環境税はもはや「負担」ではなく、「未来への投資」と位置づけ直されつつあります。


税収構造の転換と「三本柱」

財務省の内部資料では、今後の税制再構築を「三本柱」で整理しています。

  1. 所得課税の見直し:累進構造を維持しつつ、控除や非課税枠を再整理。
  2. 資産課税の拡充:富裕層の資産所得に着目し、負担の公平性を強化。
  3. 環境・炭素税の再構築:脱炭素・循環経済の推進に連動。

これらを通じて、景気変動に強く、将来世代にも公平な「持続型税収構造」を目指す方針です。
同時に、地方税の偏在是正(例:利子税収の東京集中)も、税制全体の再設計の一環として扱われる見通しです。


結論

日本の税制は、これまでの「所得中心」から「資産・環境を含む多軸型」へと転換期を迎えています。
税は単なる財源ではなく、社会の方向性を示す政策ツールでもあります。
高齢化と格差、そして気候変動という三つの課題にどう対応するか――次の税制改正は、その答えを形にする試金石となるでしょう。


出典

出典:日本経済新聞(2025年11月・10月各紙面)、財務省「税制改正に関する基本的考え方(2025年度)」ほか


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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