税制改正ウォッチ③ 積極財政と財源改革 ― “租特依存”からの脱却

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高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、成長投資を重視しつつも財政規律をどう保つかという難題を伴います。
その中心にあるのが、「租税特別措置(租特)」への依存体質から脱却し、持続可能な財源を再構築するという課題です。
租特の整理・縮減は、財務省が長年主張してきたテーマですが、経済成長との両立をどう実現するのかが今後の焦点となります。


租税特別措置とは何か

租税特別措置とは、本来の税法の原則から特定の業種・活動を優遇する制度です。
研究開発費控除、賃上げ促進税制、設備投資減税、特定地域支援など、その内容は多岐にわたります。
企業活動を支援する一方で、税収減の要因となり、税制全体の透明性を損なうとの指摘もあります。

財務省の集計によると、租税特別措置による減収額は年間5兆円規模にのぼり、法人税収(約15兆円)の約3分の1に相当します。
これらの優遇が恒常化しており、制度本来の目的や効果が曖昧になっている点が課題です。


「責任ある積極財政」との両立

高市政権が打ち出す「責任ある積極財政」は、景気刺激や成長投資を推進しながら、無駄な支出を削減するという二重の目標を掲げています。
そのためには、歳出拡大を支える安定的な財源確保が不可欠です。
ここで注目されるのが、租税特別措置の抜本的な見直しです。

財務省は、「租特の整理こそが真の財政再建につながる」と主張し、効果検証の徹底を求めています。
一方で、経済産業省や与党内の一部には「投資意欲を削ぐ」との懸念があり、政策目的ごとに削減・維持の線引きが求められます。
「どの分野に税の優遇を残すのか」を明確にすることが、次の改正の核心になるでしょう。


財源改革の方向性

ガソリン税の旧暫定税率廃止による減収(年1.5兆円規模)や、社会保障費の増大など、財源不足は深刻です。
ミニマム課税の拡大や富裕層課税強化といった対策だけでは、安定的な財源を確保するには限界があります。

今後の財源改革では、以下の3つの方向が重要になります。

  1. 租特の効果検証と統廃合
     目的を達成した租特を縮減・廃止し、重複制度を統合する。
  2. 新たな課税ベースの拡大
     デジタル経済や国際課税ルールの整備を進め、課税逃れを防ぐ。
  3. 歳出の優先順位付け
     単なる増税ではなく、歳出の選択と集中によって財源を再配分する。

この3点は、単年度予算ではなく中期的な税制ビジョンとして整理されるべき課題です。


「成長か、分配か」ではなく「成長も分配も」

かつての財政論争では、「成長か分配か」という二項対立で語られることが多くありました。
しかし、高市政権の「責任ある積極財政」は、この二つを対立ではなく両立の軸に置いています。
その意味で、租特の整理は「分配のための財源確保」であると同時に、「成長を阻害しない制度設計」でもあります。

重要なのは、単なる削減ではなく、政策目的を明確にした「再設計」です。
どの税優遇が新しい産業・雇用・社会課題解決に貢献するのかを見極めることが、これからの税制改革の本質になります。


結論

積極財政のもとで求められるのは、「支出を増やすこと」ではなく「支出の質を高めること」です。
租税特別措置の整理・統合は、単なる削減策ではなく、政策の透明性と公平性を取り戻すプロセスです。
税制を通じた投資と再分配の最適化が、次の時代の日本経済の基盤を形づくるでしょう。


出典

出典:日本経済新聞(2025年10月31日朝刊)「企業向け政策減税 見直し論議本格化」および同年11月5日「『1億円の壁』是正案 富裕層ほど所得税負担率低下」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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