事業承継に関する税制改正が行われるたびに、「制度が使いやすくなった」「要件が緩和された」といった評価が聞かれます。
確かに、表面的には適用対象の拡大や要件緩和が盛り込まれることも多く、制度は年々利用しやすくなっているように見えます。しかし一方で、実務の現場では「むしろ縛りが強くなっているのではないか」という声も少なくありません。この違和感はどこから生まれるのでしょうか。
「入口の緩和」と「出口の厳格化」
税制改正を読み解く際に重要なのは、制度の入口と出口を分けて考えることです。
多くの改正では、制度を利用する際の要件、いわば入口部分は緩和される傾向があります。後継者の範囲拡大や要件の明確化などは、その典型例です。一方で、承継後の事後管理や継続要件、いわば出口部分は、むしろ厳格化されることが少なくありません。
この構造を理解しないまま「使いやすくなった」と判断すると、後になって想定外の負担に直面することになります。
名目上の優遇と実務負担のズレ
税制改正では、税負担の軽減や猶予といった「名目上の優遇」が強調されがちです。しかし、実務上の負担が同時に軽減されているとは限りません。
事業承継税制では、承継後も長期間にわたって報告義務や要件確認が続きます。制度を使った瞬間に終わるのではなく、その後の管理を含めて初めて制度が成立します。税務上のメリットと実務負担のバランスを見誤ると、経営の自由度が制限される結果になりかねません。
制度は企業行動をどう誘導しているのか
税制は単なる減税措置ではなく、企業行動を一定の方向へ誘導する政策手段でもあります。
事業承継税制では、雇用の維持や事業の継続が重視されており、その意図は要件や事後管理に色濃く反映されています。税制改正によって制度が使いやすく見える一方で、国が望まない行動に対しては制約が強まる構造になっています。この点を理解せずに制度を利用すると、経営判断の自由度が想定以上に制限される可能性があります。
「緩和か、縛りか」をどう見極めるか
税制改正を評価する際には、「誰にとって使いやすくなったのか」を考える必要があります。
短期的な承継を想定する企業にとっては緩和と感じられる改正でも、将来の事業再編やM&Aの可能性を残しておきたい企業にとっては、むしろ縛りが強くなったと感じられることもあります。制度の評価は一律ではなく、自社の将来像によって変わります。
結論
事業承継をめぐる税制改正は、単純に「使いやすくなった」「厳しくなった」と二分できるものではありません。
入口の緩和と出口の厳格化、名目上の優遇と実務負担の増加といった二面性を持っています。税制改正を読む際には、その表と裏を同時に捉え、自社の経営戦略に照らして判断することが、制度に振り回されないための重要な視点となります。
参考
・日本経済新聞「M&Aは特別な手段ではない」PwCコンサルティング パートナー 久木田光明(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
