ブロックチェーン技術を活用した「株式トークン」は、金融市場に新たな可能性をもたらしています。
24時間取引、1円単位での売買、リアルタイムな株主管理――こうした利便性の一方で、税制・法制度の整備はまだ途上です。
新たな金融インフラを実現するためには、既存制度との調和と、デジタル取引に対応した法的枠組みの確立が不可欠となります。
■ 株式トークンの法的位置づけ
株式トークンは、ブロックチェーン上で発行される「デジタル証券(セキュリティトークン)」の一種です。
金融商品取引法上では「電子記録移転有価証券表示権利等(電子記録移転権利)」として位置づけられ、既存の株式や社債と同様に投資性のある金融商品として扱われます。
このため、発行や流通には金融庁への届出・登録が必要であり、従来の証券会社・取引所の規制体系のもとで運用されます。
しかし、株式トークンはブロックチェーン上で直接移転が可能なため、「誰が、いつ、どのように権利を取得したか」を特定する仕組みが新たに求められます。
この「権利移転の真正性」「名義管理の信頼性」をどう担保するかが、法制度上の大きな課題です。
■ 税務上の取扱い ― 株式と同様の原則
税務面では、現時点では株式トークンも原則として「上場株式等」と同様に扱われます。
売却益や配当には、上場株式と同じく申告分離課税20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%) が課されます。
また、特定口座やNISA口座の適用は現段階では制度設計中であり、取扱いの整備が今後の焦点です。
課税上の留意点は以下の通りです。
- 売却益の課税時期:ブロックチェーン上の取引完了時点をもって譲渡が成立するとみなされます。
- 配当所得の源泉徴収:企業側の支払時に自動的に源泉徴収が行われ、ブロックチェーン経由で分配される場合も課税対象です。
- 損益通算の可否:他の上場株式・投資信託と損益通算が可能な制度設計が検討されています。
現行税制では「取引の形式よりも経済実質」で判断されるため、トークンであっても株式と同様の実質を持つ場合は同等の課税が適用されます。
■ 法制度上の整備課題
制度設計の課題は、主に以下の3点に整理されます。
- 名義管理と本人確認(KYC)
株主名簿に代わるデジタル管理をどのように実装するか。匿名性の高いブロックチェーンでは、マネーロンダリング対策(AML)との両立が不可欠です。 - 取引所制度との整合性
現行の証券取引所は取引時間・決済期間(T+2)を前提としていますが、24時間取引を可能にするには決済制度・監視体制の刷新が求められます。 - 投資家保護の新たな枠組み
取引履歴がブロックチェーン上に記録される一方で、トークン紛失やウォレット管理のミスなど、新しいリスクへの対応策も必要です。
これらの課題は単に「技術の問題」ではなく、金融インフラ全体の信頼性に関わる制度設計の問題です。
■ 海外との比較と制度調和
米国や欧州では、すでに株式トークンの制度化が進んでいます。
米SEC(証券取引委員会)はデジタル証券を既存の証券法の枠組みで監督しており、欧州でも「MiCA(暗号資産市場規制)」が2025年に全面施行される予定です。
一方、日本は投資家保護を重視する慎重な制度設計を進めており、Progmatの取り組みはその実証実験的な役割を果たしています。
日本がデジタル証券の国際競争力を高めるためには、税制・法制度・技術基盤を一体的に整備することが重要です。
結論
株式トークンは、金融市場の透明性と効率性を高める画期的な仕組みです。
しかし、その普及には「技術革新」と同時に「制度革新」が不可欠です。
税制上の整合、名義管理のルール、24時間取引に対応した監視体制――これらの整備が進まなければ、投資家の信頼は得られません。
デジタル資本市場の発展は、金融機関だけでなく、税務・法務・会計の専門家が連携して取り組むべき国家的課題といえます。
株式トークンの時代は、まさに「制度とテクノロジーの融合」を試す舞台です。
出典
出典:2025年11月5日 日本経済新聞「『株式トークン』日本でも」
Progmat公式資料/金融庁「電子記録移転有価証券表示権利等に関する指針」/財務省「金融所得課税の一体化に関する報告書(2025年)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
