1. 「租税特別措置」とはどんな制度?
租税特別措置(略して「租特(そとく)」)とは、特定の政策目的を達成するために、通常の税法とは別に設けられた“特例的な減税制度”のことです。
たとえば、
- 研究開発税制 … 新技術や製品開発を行った企業の法人税を軽減
- 賃上げ促進税制 … 従業員の給与を一定割合以上引き上げた企業の法人税を減税
といった具合に、「望ましい経済活動を促す」ために税を優遇する仕組みです。
本来、税金は“公平に負担する”のが原則ですが、租特は「政策目的」という名のもとに一部の企業や活動を優遇する形になります。
2. 租特の規模は「年間2.9兆円」
国の試算によると、租税特別措置による法人税の減収額は2023年度で約2.9兆円。
そのうち約1.7兆円が、研究開発税制と賃上げ促進税制によるものです。
つまり、企業が本来払うべき法人税の一部が“政策的な理由で免除・軽減”されているということです。
租特は一見すると「企業の努力を支援する制度」に見えますが、実際には一部の大企業に恩恵が集中しているという批判もあります。
3. なぜ今、「見直し」が必要なのか
租特はもともと「一時的な政策支援策」として導入されるケースが多いのですが、
気づけば制度が長期化し、恒久的な“企業優遇税制”になってしまったものも少なくありません。
経済産業省などが後押しする研究開発税制も、創設から数十年。
近年は、「効果が測定しにくい」「企業が実質的な減税の恩恵だけを受けている」といった批判が相次いでいます。
また、財政再建の観点からも、
「税収減の一方で社会保障費は増え続けている」
という構造的な問題があり、限られた税源をどこに振り向けるかが政治の焦点になっています。
4. 今後の見直しの方向性
自民党と日本維新の会の連立合意書では、
「政策効果の低い租税特別措置は廃止する」
と明記されました。
廃止・縮小の候補に挙げられているのが、
- 賃上げ促進税制
- 研究開発税制
の2つ。
どちらも“政策的に良いこと”を支援する制度ですが、
「支援しても賃上げが進んでいない」「研究成果が国内に還元されていない」
という実態があり、見直しは避けられない情勢です。
5. 生活者にとっての意味
租特の見直しは一見「企業向けの話」に聞こえますが、
実は国の財政構造を立て直し、社会保障や家計支援に回す財源を生むための第一歩でもあります。
たとえば、前回の記事で触れた「食品への消費税ゼロ構想」の実現にも、
こうした財源の見直しが前提になる可能性があります。
つまり――
「企業優遇の見直し → 税収確保 → 家計支援の拡充」
という流れが想定されているのです。
6. まとめ
租税特別措置は、かつては経済成長を支えた重要な政策ツールでした。
しかし、今は「税の公平」と「財源の再分配」という新しい視点から見直しが求められています。
税制改革の議論は、私たちの家計にもつながっています。
これからの「税の使い道」を注視することが、生活者としての大切な関心事になるでしょう。
出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「消費税『食品2年ゼロ』視野」/関連資料:財務省『租税特別措置の適用実態調査(2023年度)』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
