前回の記事では、租税特別措置が増え続ける背景として、日本の税制改正の仕組みや政策決定の構造について整理しました。税制は政策手段として利用しやすく、その結果として多くの租税特別措置が設けられてきました。
しかし、ここで改めて考える必要があるのは、これらの制度が本当に政策効果を生んでいるのかという点です。
租税特別措置は税収を減少させる制度でもあります。税負担を軽減することで企業の行動を促すことが目的ですが、その効果が十分にあるのかどうかは必ずしも明確ではありません。
本稿では、租税特別措置の政策効果をどのように考えるべきかという点について整理してみます。
租税特別措置は企業行動を誘導する制度です
租税特別措置は、企業や個人の行動を誘導することを目的とした制度です。
例えば設備投資減税は、企業が設備投資を行った場合に税額控除や特別償却を認めることで、投資を促すことを目的としています。研究開発税制は、企業が研究開発支出を増やした場合に税負担を軽減することで、研究開発活動の活発化を狙っています。
同様に、賃上げ促進税制は企業が給与総額を増やした場合に法人税額の控除を認めることで、企業の賃上げを後押しする制度です。
このように、租税特別措置は税制上の優遇を通じて企業の意思決定に影響を与えることを目的としています。
税負担が軽減されることで投資や雇用などの行動が促されるのであれば、政策として一定の効果を持つことになります。
企業の意思決定は税制だけでは決まりません
もっとも、企業の行動は税制だけで決まるわけではありません。
企業が設備投資を行うかどうかは、市場の需要や将来の収益見通し、資金調達環境など多くの要因によって決まります。税制優遇が存在していても、投資そのものが経営戦略として合理的でなければ企業は投資を行いません。
同様に、賃上げについても企業の業績や労働市場の状況などが大きく影響します。税制優遇があったとしても、企業の収益状況が厳しければ賃上げは難しくなります。
このように、税制は企業行動に影響を与える要因の一つではありますが、唯一の要因ではありません。このため、税制優遇が企業行動をどの程度変えたのかを評価することは簡単ではありません。
誘導効果と追認効果
租税特別措置の政策効果を考える際には、「誘導効果」と「追認効果」という考え方が重要になります。
誘導効果とは、税制優遇によって新しい行動が生まれる効果です。例えば、税額控除があるから設備投資を行うというケースです。
これに対して追認効果とは、もともと予定していた行動に税制優遇が適用されるだけのケースを指します。
例えば、企業がすでに設備投資を計画していた場合、税制優遇がなくても投資は行われます。その場合、税制は投資を増やしたわけではなく、既存の投資に対して税負担を軽減しただけということになります。
政策税制の評価では、この二つを区別することが重要です。追認効果が大きい場合、税制優遇は税収を減らすだけで、政策効果は限定的ということになるからです。
政策効果の評価は容易ではありません
租税特別措置の政策効果を評価することが難しい理由は、経済の中で多くの要因が同時に作用しているためです。
例えば設備投資減税が導入された後に設備投資が増加したとしても、それが税制の影響なのか、それとも景気回復によるものなのかを区別することは容易ではありません。
また、企業ごとに状況が異なるため、同じ税制優遇でも企業によって影響の大きさは異なります。
さらに、制度が長期間続くと企業行動が制度を前提に形成されることもあります。その場合、制度を廃止した場合の影響を予測することも難しくなります。
このような事情から、租税特別措置の政策効果を厳密に評価することは簡単ではありません。
結論
租税特別措置は税制を通じて政策目的を実現する重要な制度です。しかし、その政策効果を評価することは容易ではありません。
税制優遇が企業行動を変える場合もあれば、もともとの行動を追認するだけの場合もあります。また、企業の意思決定には市場環境や経営戦略など多くの要因が影響します。
このため、租税特別措置の政策効果を評価する際には、制度の利用状況だけでなく、企業行動への影響を慎重に分析する必要があります。
税制優遇は財政負担を伴う制度でもあります。政策税制の効果を検証しながら、制度の必要性を検討していくことが今後の税制議論において重要になると考えられます。
参考
税のしるべ 2026年3月2日
「6年度の租特適用実態を公表、賃上げ促進税制の適用件数が大幅増」
