租税特別措置の全体像を考える― 減税の「特別ルール」は、何のために、どう使われているのか

政策
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■ 「租税特別措置」ってそもそも何?

「租税特別措置(そぜいとくべつそち)」とは、
国の税制の中で 特定の目的を達成するために特別に設けられた減税制度 のことを指します。

たとえば、

  • 新しい技術開発を支援するための「研究開発税制」
  • 中小企業の設備投資を後押しする「中小企業投資促進税制」
  • 地方に工場を建てた企業への「地域再生関連税制」
    などがあります。

つまり、「通常ルール(本則)」に対して“例外的な特例”を設けているのが租税特別措置です。
税制の世界では、「特例=租特(そとく)」と略されることもあります。


■ なぜ特別措置がつくられるのか

政府が租税特別措置をつくる理由は大きく3つあります。

  1. 経済政策の手段として使いやすいから
     補助金のように予算措置を伴わず、税制改正だけで支援できるため、財政支出を抑えつつ政策を打ち出しやすい。
  2. 景気変動に柔軟に対応できるから
     たとえば、景気が悪化した時に特定業種の税負担を軽減して雇用維持を支えるといった“景気対策”として使われます。
  3. 特定分野の投資や行動を促すため
     脱炭素投資、DX(デジタル化)投資、賃上げなど、国が促したい行動を税制で後押しするという仕組みです。

■ 「政策減税」の裏側にある問題

一方で、租税特別措置は年々数が増え、制度が複雑化しています。
財務省の資料によると、2024年度時点でその数は 200項目以上
減税による税収の“目減り”額は 毎年3〜5兆円規模 に達します。

問題は、「どの制度が本当に効果を上げているのか」が分かりにくいこと。
各省庁が所管する制度をそれぞれ抱え込んでおり、政策効果の検証や整理が進みにくい構造になっています。

また、企業側でも「制度が複雑すぎて活用できない」「一部の大企業に偏っている」という声が根強くあります。


■ 主な租税特別措置の例

以下は代表的な租税特別措置の一覧です。

分野内容主な対象
研究開発税制技術開発費の一部を法人税から控除大企業中心
賃上げ促進税制給与を引き上げた企業の法人税を軽減すべての企業
中小企業投資促進税制新設備の取得額を特別償却・税額控除中小企業
地域再生税制地方に本社や工場を移転した企業を優遇地方企業
環境関連税制省エネ・再エネ設備投資を支援製造業など

このように目的は多様ですが、「本当に必要なもの」と「既得権化しているもの」 が混在している点が課題です。


■ 財務省による「棚卸し」と政治の攻防

財務省は毎年、租税特別措置の「政策評価」を実施しています。
しかし、実際には 「廃止」や「縮小」に踏み込める項目はごくわずか

なぜなら、業界団体や政治家の支援基盤が絡み、廃止が難しい「政治的構造」があるためです。
このため、効果が薄れても延命される措置が少なくありません。

たとえば、研究開発税制は経済産業省、賃上げ促進税制は厚労省や内閣官房、地域再生税制は国交省や総務省と、所管が分かれているため一体的な見直しが難しいのです。


■ 維新が問題提起する理由

日本維新の会の藤田文武氏が「租税特別措置の見直し」を打ち出した背景には、次のような視点があります。

  • 財政赤字が膨らむ中で、“減税の棚卸し”なしに新しい減税はできない
  • 経済の実態に合わない“形骸化した優遇”を整理する必要がある
  • 税制をシンプルにし、政策効果を可視化することが政治の責任

つまり、「減税ありき」ではなく「成果ありき」の税制に切り替えるという考え方です。
これは、企業支援よりも「成長と公正のバランス」を重視する姿勢ともいえます。


■ 今後の焦点:透明性と公平性の再設計

租税特別措置の見直し議論は、単なる“テクニカルな税制改正”ではありません。
それは、「誰がどのように恩恵を受け、どのように国が成長していくのか」という社会のルールづくりに直結しています。

これからの方向性としては、

  • 効果の乏しい措置を廃止・縮小
  • 成長・環境・賃上げなど明確な成果に結びつく税制へ再設計
  • データ公開と第三者評価による透明性の確保

こうした「見える化改革」が、政治に求められています。


■ まとめ

租税特別措置は「必要悪」とも呼ばれる制度です。
一方で、うまく使えば日本経済を後押しする強力な政策ツールにもなり得ます。

いま問われているのは、「誰のための減税なのか」「何のために存続しているのか」という根本的な問いです。
政治・企業・市民が同じテーブルで“税の使い方”を考える時期に来ています。


出典:
・財務省「租税特別措置の適用実態調査(令和6年度)」
・2025年10月6日 日本経済新聞 「維新・藤田氏『研究開発税制も対象に』」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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