社債×インフレ対策―― 金利上昇時代の「守りの資産運用」を考える

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物価の上昇が続き、老後の家計を直撃しています。
「生活費が毎年じわじわ上がる」「定期預金の金利はほとんど変わらない」――
そんな声を多く聞きます。

では、退職金や老後資金をどこに置いておけばいいのでしょうか。
株式のように大きく動かず、預金よりも実質的なリターンを得られる資産。
その一つの答えが、「社債によるインフレ防衛」です。


1️⃣ インフレに弱い資産・強い資産を知る

まずは基本から確認しましょう。
インフレ(物価上昇)は、お金の価値が下がることを意味します。
100万円で買えたものが、翌年には110万円になっていたら、現金の購買力は下がっているわけです。

このとき、資産の性質によって「インフレ耐性」は異なります。

資産区分インフレに強い?理由
現金・預金弱い金利が低く、物価上昇に追いつかない
国債・社債(固定金利)やや弱いインフレで実質利回りが低下
株式・REIT強い企業収益や不動産賃料が上がる
金(ゴールド)強い通貨価値下落のヘッジ
インフレ連動債強い物価上昇に応じて元本・利息が増える

つまり、社債も万能ではありません。
インフレが長期化すれば、固定金利債の実質利回りは目減りします。
しかし、「組み合わせ方」次第で、社債は強力な防衛資産になり得ます。


2️⃣ 金利上昇=社債価格の下落?その仕組みを理解する

社債投資で最も誤解が多いのが、金利と価格の関係です。

金利が上がると、新しい債券はより高い利回りで発行されます。
すると、既に低金利で発行されている債券の価値は下がります。

つまり――

📉 金利が上昇すると、既発の社債価格は下がる。
📈 金利が下がると、既発の社債価格は上がる。

これが「金利リスク」です。

図で示すとこうなります👇

金利 ↑  →  債券価格 ↓
金利 ↓  →  債券価格 ↑

ただし、満期まで保有すれば額面で償還されます。
価格変動は途中売却しない限り確定しないため、
「満期保有」を前提にすれば、金利上昇期でも社債は安定資産になり得ます。


3️⃣ デュレーションで“金利感応度”を把握する

金利変動の影響度を測る指標が「デュレーション(Duration)」です。
簡単に言えば、金利が1%動いたときに、債券価格が何%変動するかを示すものです。

社債の年限代表的なデュレーション金利1%上昇時の下落幅(目安)
3年債約2.8年約−2.8%
5年債約4.5年約−4.5%
10年債約8年約−8%

金利上昇が続く局面では、期間の短い社債を中心に持つのが鉄則です。
金利がある程度落ち着いたら、長期債に切り替える
この「期間分散」が、退職金運用では特に重要になります。


4️⃣ インフレ対応のための「分散の3原則」

税理士・FPとしてお伝えしたいのは、
インフレ期には「何か1つに賭ける」よりも、複数資産を組み合わせる戦略が有効だということです。

ここでいう3原則は以下の通りです。

原則内容具体例
① 期間分散満期の異なる債券を保有3年+5年+10年のラダー運用
② 通貨分散円・ドル・ユーロ建てを組み合わせ為替ヘッジあり外債を一部導入
③ 資産分散債券+株式+金を併用株20%、債券60%、金10%、預金10%など

特に②の「通貨分散」は、円安・円高のリスクを打ち消すうえで効果的です。
ただし外貨建て社債は為替リスクを伴うため、為替ヘッジ付きのファンド型商品を活用すると安心です。


5️⃣ インフレに強い「変動金利型」「インフレ連動債」

社債の中には、インフレに強いタイプもあります。

  • 変動金利社債(FRN):市場金利の動きに連動して利率が変化
  • インフレ連動債:物価上昇率に応じて元本や利息が増える

退職後の長期運用では、これらをポートフォリオの一部に組み込むことで、
「金利上昇=損失」という構図を和らげることができます。


6️⃣ 退職世代のための「防衛型ポートフォリオ」例

インフレと金利上昇に備える、セカンドライフ向けの分散設計例です。
退職金3,000万円を想定します。

資産分類配分主な目的
現預金・短期国債30%当面の生活費・緊急予備資金
変動金利社債・インフレ連動債25%インフレ防衛・金利上昇対応
固定金利社債(3〜7年)20%安定的な利息収入
株式・投信(配当重視)15%成長資産としてインフレに備える
金・REITなど10%通貨価値下落のヘッジ

💬 ポイント:

  • 社債を「安全+防衛」両面で活用
  • 変動金利型を混ぜて金利上昇リスクを吸収
  • 定期的に組み替え(リバランス)してバランスを維持

7️⃣ 税理士・FPとしてのメッセージ

―― 「守る投資」こそが次の10年を支える

社債は、短期的な値上がりを狙うものではありません。
ゆっくりと、確実に「お金が働く時間」をつくるための道具です。

物価が上がっても、金利が動いても、焦らず構えられる仕組みを持つことが“防衛投資”の本質です。

退職金は「第二の人生の土台」。
守りながら、息の長いリターンを狙うなら、
社債を中心とした分散戦略が、今の時代に最も現実的です。


📚 出典・参考
・日本経済新聞(2025年10月13日)「育たぬ社債市場、米の1割未満」
・日本証券業協会「債券市場の基礎知識」
・金融庁「個人向け債券・社債の仕組み」
・国税庁「利息・債券所得の税務」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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