高齢化と財政制約の中で、社会保障をどのように支えるか――これは2026年度予算編成の最大のテーマです。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、成長投資を通じて税収を確保し、持続的な分配を実現する方針を打ち出しています。
一方で、医療・介護・年金といった社会保障費は毎年自然増を続け、財政の圧力となっています。成長と分配、歳出と責任。そのバランスをどう取るのかが問われています。
社会保障費の膨張と「財源の壁」
社会保障関係費は2025年度に約38兆円、国の一般会計歳出の3分の1を占める水準に達しました。今後10年で高齢者人口がピークを迎える中、医療・介護・年金の自然増は年1兆円超と見込まれています。
一方で、消費税率を引き上げて財源を確保する案は、家計負担の観点から慎重論が強く、政治的にも容易ではありません。
税収頼みの拡張策は限界が見え、社会保険料の上昇も企業・家計の可処分所得を圧迫しています。いま求められているのは「成長による税収増」と「歳出効率化」を両立させる新たな財政運営モデルです。
「責任ある積極財政」とは何か
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、単なる財政出動ではありません。
財政規律を保ちながら、AI・バイオ・グリーンなど成長分野に重点投資を行い、その成果で税収を増やして社会保障を支える――という循環型のモデルを目指しています。
言い換えれば、「借金でバラまく積極財政」ではなく、「未来への投資としての積極財政」です。
その意味で、社会保障の財源問題も「歳出削減」ではなく、「経済成長を通じて支え続ける仕組み」への転換が求められています。
税と保険料の境界を見直す
社会保障の財源構造は、主に税(国費)と社会保険料(保険制度)で支えられています。
しかし、現実にはその境界が曖昧になりつつあります。介護保険や医療費助成には公費が投入され、年金財源にも国庫負担があります。
今後は「どこまでを税でまかない、どこからを保険で賄うか」という線引きを明確にすることが不可欠です。
所得の高い層が多くの社会保障給付を受ける仕組みを是正し、負担能力に応じた再分配を強化する方向が現実的です。
一方で、企業の社会保険料負担がこれ以上増えれば雇用や賃上げに影響を及ぼすため、企業負担の限界も踏まえた調整が必要になります。
歳出の「選択と集中」
社会保障の効率化は「削減」ではなく、「重点化」の発想に立つべきです。
例えば、高齢者医療でもすべての薬や治療に同じ公的負担を適用するのではなく、医療効果や費用対効果の高い分野に重点配分する仕組みが考えられます。
また、デジタル化による不正防止や給付事務の自動化を進めることで、歳出の「ムダ」を減らす取り組みも急がれます。
財政制度等審議会では、「社会保障費の伸び率を経済成長率の範囲に抑える」目標も検討されています。これは歳出抑制ではなく、成長との調和を図るための新たな枠組みといえます。
持続可能な「社会契約」へ
社会保障の再設計は、単なる財源論ではなく、社会のあり方そのものを問い直すプロセスでもあります。
「支える側」と「支えられる側」の境界が曖昧になり、現役・高齢の両世代が互いに助け合う「共助の循環」が求められています。
そのためには、財政の持続性だけでなく、国民が制度を信頼できる透明なルールが必要です。
どの分野にいくら使い、どんな成果を得たのか――「見える財政」を実現することが、責任ある積極財政の前提条件となります。
結論
「責任ある積極財政」は、支出を増やす政策ではなく、社会保障を含む財政構造そのものを「成長と分配の循環」に組み直す挑戦です。
経済成長によって得た果実を世代を超えて分かち合い、国民が納得できる形で社会を支える。その循環が機能すれば、財政は単なる支出ではなく「社会の未来への投資」となります。
高市政権の掲げる方針が、この理念をどこまで現実の制度改革に落とし込めるか――それが、日本の社会保障の持続可能性を左右します。
出典
・財務省「財政制度等審議会」資料(2025年11月)
・厚生労働省「全世代型社会保障構築会議」資料
・日本経済新聞「社会保障5つの論点」シリーズ(2025年11月)
・内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2025年版)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
