2026年度予算の編成に向けて、政府は社会保障制度の見直し議論を加速させています。少子高齢化の進展により、現役世代の保険料で高齢者医療を支える「仕送り型」構造は限界に近づきつつあります。特に焦点となっているのが、医師の処方薬のうち、市販薬と成分や効果がほぼ同じ「OTC類似薬」の保険適用を見直すという提案です。負担を誰が、どのように分かち合うのか――政権の覚悟が問われています。
高まる「仕送り型」負担の歪み
現役世代の社会保険料はすでに給与の約15%に達しています。年金や介護保険を含めた負担の上昇が続けば、可処分所得の減少は避けられません。一方で高齢者医療を中心とする国民医療費は2023年度に48兆円を突破し、10年で2割も増加しました。医療費の膨張を抑えるためには、保険の範囲そのものを見直す必要があると考える政府関係者も増えています。
「ほぼ市販薬」を保険から外す動き
現在、風邪薬や湿布薬など、市販薬と成分がほぼ同じ薬を医師が処方すると、保険が適用され患者の自己負担は1~3割で済みます。「薬局で買うより安いから」と医療機関を受診する人も多く、結果として国の医療費が膨らむ構図です。
健康保険組合連合会(健保連)の試算によると、65歳未満の患者の14%が市販薬と同じ成分の薬だけを処方されており、薬剤費は約919億円に上るといいます。外来受診料を含めた総額は1兆円を超え、65歳以上を含めればさらに増えると見られます。
医療現場と患者団体の反発
日本医師会は「自己判断による受診控えが進み、健康被害が生じかねない」と懸念を表明しています。患者団体からも、「医師の診断を受けた上で薬をもらう安心感を失いたくない」という声が上がっています。慢性疾患やアレルギー疾患の患者からは「薬局で市販品を買うのは経済的にも負担が大きい」との訴えもあります。
現実的な落としどころは
健保連は、OTC類似薬を希望する患者に追加負担を求める「部分的保険外し」の案を提示しています。全額自己負担ではなく、一定額を上乗せして公費負担を抑える仕組みです。財務省はさらに踏み込み、外来処方薬全般の自己負担拡大を財政審で提案しました。
ただし、厚生労働省は慎重です。社会保障審議会の医療保険部会では「保険外しは時期尚早」との意見も根強く、年末までに結論を出す見通しです。高市政権としても、負担増に敏感な国民感情を踏まえた政治判断が求められます。
結論
「ほぼ市販薬」の保険外しは単なる薬剤費削減の問題ではなく、社会保障制度の持続可能性を問う試金石です。現役世代の可処分所得を守りつつ、医療サービスを公平に維持するためには、「誰がどの範囲で支えるのか」という社会的合意が不可欠です。高齢化がピークを迎える2030年代を見据え、いまこそ“聖域なき見直し”の議論が求められています。
出典
・日本経済新聞「社会保障 5つの論点(1)『ほぼ市販薬』外し、政権試す」(2025年11月11日)
・財務省「財政制度等審議会 資料」
・健康保険組合連合会「レセプト分析による医療費推計(2024年)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
