社会保障改革は「民主社会を守る基盤」 持続可能な制度の条件と、これからの改革の方向性

政策

日本の社会保障制度は、医療・介護・年金を通じて国民の生活を支え続けてきました。しかし急速な少子高齢化により、制度の持続可能性への不安がかつてなく高まっています。特に「現役世代の負担増」ばかりが注目され、社会保障が本来持つ役割や価値が見失われがちです。

本稿では、長年にわたり社会保障改革に携わってきた専門家の議論を踏まえながら、これからの社会保障がどのように変わるべきかを整理します。社会保障は単に支え合いの仕組みではなく、民主的社会を守る「土台」であるという視点が欠かせません。

1 社会保障と税の一体改革で見えた課題

2012年の「社会保障と税の一体改革」では、消費税を10%に引き上げ、その増収分を社会保障に充てることが目指されました。しかし高齢者向け給付の増加は想定を上回り、財源は慢性的に不足しています。

その中で重要な論点となるのが、
「社会保険料」と「税」のどちらで負担するか
という問題です。

社会保障の仕組みを支える中核は、やはり所得比例の社会保険料です。
・負担能力に応じて拠出する公平性
・必要なときに給付を受ける権利性
この二つが両立できる点が、社会保険方式の強みです。

さらに「勤労者皆保険」を徹底し、本来は被用者保険に加入すべき人が国保・国民年金にとどまっている状況を改めることも急務です。企業規模にかかわらず働く全ての人が同じ土台に立てるようにしなければ、老後の保障格差は解消できません。

2 年齢で区切らない新しい支え手の概念

日本では「生産年齢人口=15~64歳」という区分で、支え手の減少が強調されてきました。
しかし実際には、すでに 900万人を超える65歳以上の方が労働力人口に参加 しています。

労働経済学の視点では、
「支え手=労働力人口」
であり、一定年齢以上だからといって自動的に「支えられる側」になるわけではありません。

「おみこし型→肩車型」という人口構造の例えはわかりやすい一方、あまりに単純化されており、議論をミスリードしかねません。現実には、
労働参加率を上げれば社会保障制度は維持できる
という実績を日本はすでに示しています。

女性・高齢者の労働参加率にはまだ伸びしろがあり、労働政策研究・研修機構(JILPT)の試算では、
労働力率を10ポイント引き上げることで、2040年の労働力人口減少は「わずか100万人」に抑えられます。

3 社会保障給付は「経済を支える力」

社会保障給付は単なる支出ではなく、経済活動そのものを支えています。

・年金は消費の源泉
・医療・介護はそれ自体が大規模産業
・総給付額は140兆円を超え、GDPの約1/4規模に拡大見込み

社会保障を経済の「コスト」だけで語るのは誤りであり、むしろ地域経済や産業構造を支える柱として位置づけ直す必要があります。

4 高齢者の就労を阻む制度の見直し

働く意欲と能力のある高齢者が力を発揮できるよう、制度改革も不可欠です。

在職老齢年金 の合理的見直し
公的年金等控除 を働く高齢者に中立的な設計に変更
・定年延長や定年撤廃の検討
・健康寿命を伸ばす予防医療の強化

これらは、支え手を増やすための重要な政策パッケージとなります。

5 応能負担の原則を再構築する

全世代型社会保障を実現するためには、
「年齢ではなく能力に応じて負担する」応能負担の徹底
が不可欠です。

近年、一定の所得を持つ高齢者の負担増について国民の理解は広がりつつあります。所得や資産に応じた負担の在り方を見直しつつ、若者と高齢者の対立構造ではなく、ライフステージを通じた支え合いとして制度を再構築する視点が求められます。

6 社会保障は「民主社会の基盤」である

社会保障は単なる所得移転の仕組みではなく、
個人が尊厳を保ちながら自立して生きられる社会の基礎
です。

福沢諭吉の「独立自尊」の精神にもとづけば、
・困難に直面しても「生活が破綻しない」
・誰もが最低限の安心を持てる
こうした条件が整って初めて民主社会は成立します。

日本の医療保険制度は、所得にかかわらず受診でき、フリーアクセスで高度医療に到達できる世界的にも優れた仕組みです。この価値を次世代に持続可能な形で受け渡していくことが、今の世代に求められています。


結論

社会保障制度は、少子高齢化で厳しい局面を迎えている一方で、改革次第で十分に持続させることができます。鍵となるのは、
・労働力人口を維持・拡大する政策
・応能負担の原則の回復
・働きやすい制度・税制への見直し
・社会保障の役割を「コスト」から「社会の基盤」へ再評価すること

社会保障は、民主社会を守るためのインフラです。制度の価値を正しく理解し、世代を超えた合意形成のもとで改革を進めていくことが、これからの日本に求められています。


出典

・日本経済新聞「〈直言〉社保改革で民主社会守れ 清家篤・元慶応義塾長」(2025年11月30日)
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)資料
・政府統計等より筆者作成


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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