社会保険料負担軽減が前面に出る選挙と、先送りされる社会保障改革

FP

衆院解散により、事実上の選挙戦が始まりました。各党の公約を見ると、消費税減税と並び、医療や介護を中心とする社会保険料の負担軽減が前面に打ち出されています。現役世代の手取りを増やすというメッセージは分かりやすく、有権者への訴求力も高いものです。
しかし、その一方で、制度の持続可能性に直結する改革論は後景に退いています。負担軽減の裏側で、どのような議論が避けられているのか。本稿では、今回の選挙を巡る社会保障政策の特徴と課題を整理します。


選挙で強調される「負担軽減」というメッセージ

今回の選挙戦で、与野党が共通して強調しているのは「社会保険料の引き下げ」です。保険料は税と異なり、給与明細で直接目に見えるため、現役世代の不満が集まりやすい項目です。
高市早苗首相も、所得税減税と給付を組み合わせた給付付き税額控除の導入を掲げ、食料品の消費税ゼロと一体で議論する姿勢を示しました。社会保険料の逆進性を緩和し、中低所得層の手取りを増やすという説明は、選挙向けとして分かりやすい構図です。

ただし、負担軽減はあくまで「結果」であり、その前提となる制度改革や財源の議論は十分に示されているとは言えません。負担を下げるためには、給付の抑制か、新たな財源の確保が不可欠だからです。


医療・介護分野で進まない抜本改革

与党側では、医療費の圧縮によって社会保険料を下げる方針が示されています。自民党と日本維新の会は、薬剤費の見直しや過剰な入院病床の削減などを財源として挙げています。
しかし、これまでの改革の実績を見ると、踏み込みは限定的です。市販薬と効能が類似するOTC類似薬については、保険適用からの除外ではなく、一定の上乗せ負担にとどまりました。介護保険でも、2割負担の対象拡大は議論されたものの、結論は先送りされています。

背景には、医療と介護の負担増が同時に進むことへの政治的な警戒感があります。結果として、制度全体を通じた負担の再配分という難しいテーマは避けられ、個別の調整に終始しているのが実情です。


国民会議と給付付き税額控除の停滞

給付付き税額控除については、与野党の間で一定の協調ムードがありました。自民党、維新、公明党、立憲民主党による協議も始まり、超党派の「国民会議」で議論を深める構想が描かれていました。
しかし、衆院解散によってこの枠組みは事実上停止状態となりました。制度の目的、対象、財源といった基本論点は、議論の入り口に立った段階にすぎません。

野党側も、高齢者や患者の負担増には慎重です。立憲民主党や公明党は給付付き税額控除や保険料引き下げを掲げていますが、恒久的な財源の説明は十分とは言えません。国民民主党は社会保険料の還付を提案していますが、安定財源を欠けば一時的な給付にとどまる懸念があります。


社会保険料が重くなる構造的背景

社会保険料負担が増え続ける背景には、明確な構造要因があります。高齢化の進展と医療技術の高度化により、社会保障給付費は拡大を続けています。2025年度当初予算では、給付費は140兆円を超え、30年前と比べて2倍以上に増えました。

とりわけ現役世代の負担増は顕著です。75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度を支える支援金は、制度開始時と比べて大きく増加しています。賃金が伸び悩む中で保険料だけが上昇すれば、可処分所得を圧迫するのは避けられません。

民間シンクタンクの試算では、75歳以上の窓口負担をより広く3割とするなどの改革を行えば、将来の保険料負担の上昇を一定程度抑えられるとされています。制度設計を見直さない限り、負担増は続くという指摘は重いものです。


結論

今回の選挙では、「社会保険料を下げる」という分かりやすいメッセージが前面に出ています。しかし、その裏側で避けられているのは、誰がどこまで負担を担うのかという本質的な議論です。
社会保障制度は、暮らしを支えるだけでなく、経済成長の土台でもあります。短期的な痛みを避け続ければ、将来世代への負担の先送りにつながります。有権者に不都合な現実も含めて説明し、選択肢を示す覚悟が、各党に問われていると言えるでしょう。


参考

・日本経済新聞「社保改革、解散で後回し 与野党は負担軽減前面に」(2026年1月24日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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