社会保険料を下げてほしい。
現役世代を中心に、こうした声は年々強まっています。賃上げが進んでも手取りが増えにくい状況では、自然な感情といえます。
しかし、社会保険料は下げれば終わりという性質のものではありません。
その財源で支えられている給付や制度があり、料率引き下げは必ず「何かを削る」判断と表裏一体です。本稿では、社会保険料を下げた場合に、現実に何が影響を受けるのかを整理します。
医療給付の抑制という選択
社会保険料の中で、最も大きな割合を占めるのが医療保険です。
料率を下げる場合、まず検討対象になるのは医療給付費の抑制です。
具体的には、診療報酬の引き下げ、医療機関への支払いの抑制、薬価の引き下げなどが挙げられます。
これらは財政面では効果がありますが、医療提供体制の維持や地域医療への影響が避けられません。
給付を削るという判断は、医療の質やアクセスに直結します。
高齢者医療への支出見直し
現役世代の社会保険料の多くは、高齢者医療を支えるために使われています。
保険料を下げるには、この「仕送り構造」に手を付ける必要があります。
高齢者の自己負担割合の引き上げや、一定の所得・資産を持つ層への給付調整は、現実的な選択肢です。
しかし、高齢世代への負担増は政治的な反発が強く、調整は容易ではありません。
この領域に踏み込まない限り、現役世代の負担軽減は限定的なものにとどまります。
年金給付の調整という重い課題
社会保険料の引き下げは、年金制度にも影響します。
年金は長期的な給付を前提とする制度であり、短期的な保険料引き下げは将来世代へのしわ寄せになりかねません。
給付水準の見直し、支給開始年齢の引き上げ、マクロ経済スライドの徹底などが議論されますが、いずれも生活に直結するため、社会的な合意形成が必要です。
年金は、社会保険料削減の中でも最も重いテーマといえます。
子育て・少子化対策への影響
近年、社会保険料は医療や年金だけでなく、少子化対策の財源としても使われています。
保険料を下げるということは、子育て支援や関連施策の財源をどうするかという問題も同時に生じます。
税で代替するのか、給付水準を見直すのか、あるいは施策そのものを絞るのか。
社会保険料の引き下げは、少子化対策のあり方にも波及します。
「見えない削減」が起きやすい領域
社会保険料を下げる際、最も起こりやすいのは、制度の細部での「見えない削減」です。
自己負担の微増、給付対象の限定、手続きの厳格化など、表立った改正ではなく、静かな調整が積み重なります。
これらは一つひとつは小さく見えても、利用者にとっては確実に負担増として積み上がります。
結論
社会保険料を下げるという選択は、必ず何かを削る決断を伴います。
医療、高齢者支援、年金、子育て施策のいずれか、あるいは複数に影響が及びます。
重要なのは、負担軽減だけを切り取って議論しないことです。
どの給付を守り、どこに優先順位を置くのか。その選択を社会全体で共有することが不可欠です。
社会保険料を下げる議論は、実は社会保障の中身をどうするかという根源的な問いそのものです。
参考
- 日本経済新聞 各種社会保障関連記事
- 厚生労働省 社会保障制度資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
